水槽アイテム・生体紹介

ソイルがpHを下げて弱酸性の軟水にする仕組み

水槽アイテム・生体紹介

[PR]当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。

今回はソイルが飼育水のpHを下げて弱酸性の軟水にする仕組みを詳しく解説するという内容です。

ソイルの性質

一般にソイルの性質として言われているのは以下のような作用です。

  • 飼育水を弱酸性にする
  • 飼育水の硬度を下げて軟水にする
  • アンモニウムイオン・亜硝酸イオン・硝酸イオン・リン酸イオンの吸着除去能力がある

飼育水を弱酸性にする・飼育水の硬度を下げて軟水にする・NH4+,NO2,NO3,PO43の吸着

ソイルは土を焼き固めたものなので、土の性質がわかればソイルの性質を述べることができます。

イオン交換

土には「イオン交換」という性質があります。

前節で述べた よ うに, 土中の粘土や腐植は荷電を持っており, その荷電と反対符号のイオンを静電気力で吸着している。

〔……〕

負の荷電を持つ土は,たとえば, K+, Ca2+などの陽イオンを吸着している。これらの陽イオンは, 別の陽イオン(たとえばNa+, Mg2+)が吸着相に近づくと容易に交換され, 外液を通って系外に出て行く。これをイオン交換という。

イオンの吸着力はイオン種ごとに異なるが, 吸着力の弱いイオンでも, 濃度が高ければ吸着している他種のイオンと容易に交換吸着できる。

石黒 宗秀, 岩田 進午, 土の中の物質移動 (その4)土中におけるイオンの交換吸着現象, 農業土木学会誌/56 巻 (1988) 10 号

土壌有機物は多種類のイオン化しうる官能基をもつが最も量の多いのはカルボキシル基である.この官能基は一COOのように負電荷をもち陽イオン交換基としてふるまう.−COOは土壌溶液中に存在する陽イオンのなかではH,ついでAl3+,Ca2+に対して高い親和性をもつ.このうちHに対する親和性は特別に高く,弱アルカリ性の土壌中でさえも大部分は一COOHとして存在する.

〔……〕

しかし土壌溶液中のH濃度がもっと高くなってくる(つまりpHが低下する)ともう1個のHをとり込み正に帯電するようになる.この反応はたとえばAlーOHの場合には

Al一OH+H=Al−OH2(5)

である.このようにして生じた粘土鉱物上の正電荷は陰イオンによって中和されなければならず,したがってこの部分にはClやNO3等の陰イオンが交換性イオンとして吸着される.

和田 信一郎, 土壌のイオン交換反応 : (1) 土壌物質のイオン交換基の種類と量, 日本土壌肥料学雑誌/59 巻 (1988) 3 号

土壌が弱酸的な解離基A−OHと,プロトン付加して正電荷を発現しうるB−OH基をともにもっており,土壌溶液中に陽イオンMと陰イオンAが溶存しているとする.この土壌溶液を濃縮すると,

A−OH+M=A−OM+H(2)

のようにA−OH基においてH−M交換反応が起こり水素イオンが放出される.この水素イオンはB−OH基に付加し,それにより生成したB−OH2基に陰イオンAが吸着する.つまり

B−OH+H+A=B−OH2A(3)

となる.

和田 信一郎, 角藤 やす子, 小田原 孝治, 古村 秀麿, 7点の施設土壌における水分含量変化にともなう土壌溶液イオン組成の変化, 日本土壌肥料学雑誌/65 巻 (1994) 5 号

上の話をまとめると、土壌は陽イオンを吸着しており、それらは交換可能です。

その中でミネラル含量によって区分される指標を硬度と言い,水中にあるカルシウムイオン(Ca2+)とマグネシウムイオン(Mg2+)の合計量をそれに相当する炭酸カルシウム(CaCO3)の量に換算して示されるものである。

三橋 富子, 田島 真理子, 水の硬度が緑茶浸出液に及ぼす影響, 日本調理科学会誌/49 巻 (2016) 3 号

例えば硬度の指標であるマグネシウムイオンMg2+とカルシウムイオンCa2+は陽イオンなので、土壌に吸着されている陽イオンと交換されます。つまり水中から土壌にMg2+とCa2+が移動し水中から無くなるので飼育水の硬度が下がります。

つまりソイルを使うと硬度が下がるわけです。

また陽イオンであるアンモニウムイオンNH4+もイオン交換により水中から土壌へと移動し、無くなるので飼育水中のNH4+が除去されます。

そしてB−OH2基に陰イオンAが吸着されるので、Aに相当するNO2,NO3が除去されます。

さらにリン酸であるPO43-もイオン交換で吸着除去されるのですが、この機構はちょっと違っていて、諸説ありますが、一般に活性アルミニウムイオンと活性鉄イオンによる吸着と言われています。要するにB(下の文献ではX)がAlとFeの場合良く吸着されるということです。なおこの作用は黒ボク土などの火山灰土で強いとされています。

X-OH+H+=X-OH2+
X-OH2++H2PO4=X-OH2+・H2PO4
=X-H2PO4+H2O
X-OH2++HPO42-=X-OH2+・HPO42-
=X-HPO4+H2O
X-OH2+・OH+H2PO4=X-OH2+・H2PO4+OH
X-OH2+・OH+HPO42-=X-OH2+・HPO42-+OH
X=Al, Fe

三谷 知世, 市村 綾香, 下村 耕平, 小池 奈緒子, 大城 英俊, 柳田 友隆, 江 耀宗, 焼成火山灰土壌によるリン酸イオンの除去, 化学工学論文集/26 巻 (2000) 6 号

土壌にはアルミニウムも鉄も豊富に含まれています。

アルミニウム(Al)は地殻中に酸素,ケイ素に次いで三番目に多い元素であり,土壌中に普遍的に存在する.

山地 直樹, 馬 建鋒, 酸性土壌を突破する植物の戦略, 化学と生物/53 巻 (2015) 8 号

鉄は地殻中に約6%存在する元素であり土壌中には豊富に存在するにもかかわらず,大部分が水に溶けにくい三価鉄として存在する.

野副 朋子, 中西 啓仁, 西澤 直子, 解説 土壌中の鉄を溶かして吸収するためのムギネ酸類分泌トランスポーターの発見, 化学と生物/52 巻 (2014) 1 号

ソイルの原料で使われることの多い黒ボク土は火山灰土なのでリン酸の吸着力が高く、水中のリン酸を除去しすぎる可能性があり、そこを改善するためにあえてリン酸を添加したソイルも存在します。ヨウリン酸が添加されています。

土壌は有機物(腐植)を含んでおり、その中には多くのカルボキシル基一COOを含んでおり、大部分は一COOHとして存在しています。カルボキシル基は弱酸なので陽イオン交換反応を起こし、陽イオンであるMg2+とCa2+などを吸着し、H+を放出します。

つまり陽イオンとして土壌が吸着していたH+が陽イオン交換によって放出されるのでpHが下がります。

pH緩衝能

では下がりっぱなしかというとそうではなく、放出されたH+と陰イオンの反応でH+が消失するのでpHが上がります。

土壌にはpHを下げる効果と上げる効果があり、こうした「pHが下がったら上げる・上がったら下げる」ような作用は「pH緩衝能」と呼ばれています。

〔……〕主に間隙水中の溶存種,鉱物の表面,鉱物の溶解沈殿反応,腐植などの有機物,微生物の代謝作用等が関与する.

溶存炭酸イオンの場合,pH10付近とpH6付近にpH緩衝が認められるが,それぞれ酸滴定によって加えられたH+が,直ちにCO32- +H+ ⇒HCO3 とHCO3+H+⇒H2CO3(aq)という反応によって消費されるためにpHの下降を妨げることによるものである.

〔……〕

土壌中に含まれる主な鉱物は粘土鉱物や鉄やアルミなどの金属酸化物や水酸化物であるが,その結晶表面は結合が満たされていない酸素があるので,その酸素の多くに間隙水中のH+が配位して水酸基となり,表面水酸基のプロトンが間隙水とやり取りされpHが緩衝される(Fig. 3).

〔……〕

このpH緩衝は,フェリハイドライト表面の水酸基によるFe-OH+H+ ⇒Fe-OH2+ およびFe-O+H+ ⇒Fe-OH によるものである.

〔……〕

天然に存在する水のpHは,上述のような様々なpH緩衝作用によりpH6~8程度にコントロールされている.

佐藤 努, 野澤 笑子, 西田 崇人, 土壌のpH緩衝作用とそのモデリング, 土壌の物理性/138 巻 (2018)

つまり水中の炭酸イオン(二酸化炭素が溶けていれば発生する)によってH+が増えたら減る方向に反応が進み、pHの低下を抑えます。

また土壌内の粘土鉱物にはたくさんの「B−OH基」(Bは鉱物元素など)つまり「OH」を含む結合があり、これがH+が増えてきたらB−OH2になるときにH+を吸着するのでH+が増えたら減る方向に反応が進み、pHの低下を防ぎます。

また「B−OH基」は溶液がアルカリ性に傾いて「OH」が増えてきたら、H+を放出して「OH」と反応し、H+ +OH →H2Oという反応で水になり、OHを除去するので、OHが増えてpHが上昇しそうな時はOHを減らす方向に反応が進み、pHの上昇を防ぎます。

このほかにも鉱物の溶解沈殿反応,腐植などの有機物,微生物の代謝作用などによって、H+やOHのやり取りが行われてpHは緩衝されます。つまりpHの変化を抑えるということです。

これらの働きにより、pHはある値を保持することになります。保持するpHより高くなれば下がり、下がれば上がるのである値に固定されるのです。

一般にソイルは弱酸性にすると言われていますが、pH緩衝能によって固定されるpHの値は6~8であり、弱酸性だけでなく、中性や弱アルカリ性もありえます。

実際そういうソイルも販売されています。

上の製品は中性付近を保つようです。

ここまでの話をまとめると

以下のようにまとめれらます。

  • 弱酸性にする:イオン交換とpH緩衝能で弱酸性を保っている。ただし中性付近を保持するソイルも存在する
  • 飼育水を軟水にする:イオン交換でカルシウムイオンやマグネシウムイオンが交換されるため
  • NH4+,NO2,NO3,PO43-の吸着:イオン交換。ただしリン酸イオンの場合はアルミニウムと鉄に吸着される

ソイルの種類

ソイルには二種類のソイルが存在します。「栄養系」か「吸着系」です。

栄養系ソイル

栄養系ソイルの明確な定義は無いようですが、一般に以下のような性質のあるソイルが栄養系として販売されています。

水草に必要な栄養素を比較的多く含んでいる

おそらく以下の2系統で水中に養分を供給していると思われます。

  • 焼き固める前の土に含まれていた養分を放出する
  • 土が保持していた養分をイオン交換で放出する

ソイルの原料である土はそもそも色々な養分を含んでいます。カルシウムやマグネシウム、窒素・リン酸・カリウムなどの必須元素など、元から土に含まれていた養分が水中で放出されて水草に供給されるということが考えられます。またソイルの焼結時に意図的に肥料物質を混合して焼き固めることで土にはもともと無かった肥料分を添加する場合もあります。

また土にはイオン交換可能な形で養分が保持されている可能性もあります。例えば陽イオンであるアンモニウムイオンNH4+やマグネシウムイオンMg2+、カルシウムイオンCa2+などです。これらが保持されている場合水中でイオン交換されてこれらのイオンが水中に放出されることで水草の栄養になります。

アンモニウムイオンは魚に有害ですが、硝化されて硝酸イオンになり、水中の窒素源となります。ただ立ち上げ初期に濾過バクテリアがいないような環境で使うと硝化がうまくいかずアンモニウムイオンのままなのでバクテリアが繁殖してから生体を導入したほうがいいです。

実際水草用肥料には窒素が含まれていたりするので、窒素を添加してはいけないというわけではないんです。エサが硝化されて供給されるというのは確かにあるんですけど、水草がかなりたくさん植えられていると不足しやすいので栄養系ソイルか液肥で補う必要があるのです。

後述する吸着系ソイルに比べて水草に対する有用イオンが多く保持された状態で販売されているのが栄養系ソイルといっていいでしょう。

吸着系ソイル

吸着系ソイルというのは上の栄養系ソイルの初期の有用イオンが少ないソイルと言えます。

原料は土なので、何らかの栄養が全く無いというわけではないです。

しかし初期のイオン交換可能な有用イオン(Ca2+、Mg2+、NH4+など)が少ないので(と言ってもイオン交換可能なイオンはたくさんある)、水中でイオン交換によってCa2+、Mg2+、NH4+などを逆に吸着除去できます。

栄養系と吸着系の共通点

栄養系と吸着系のソイルの共通点は以下となるでしょう。

  • NH4+,NO2,NO3,PO43-の吸着:イオン交換能力のため
  • pHを固定する:pH緩衝能のため
  • 軟水化作用:吸着系ソイルのほうが強いと思われる(栄養系ではCa2+、Mg2+が逆に放出されるため)

栄養系ソイルではもともと吸着していたCa2+、Mg2+をイオン交換で放出するので、水中のCa2+、Mg2+の吸着作用はあっても、放出される分もあるため多少軟水化作用は弱いと思われます。ただ結局全体としてはCa2+、Mg2+は吸着されていくので軟水化作用はゼロではありません。

逆に違う点は以下となるでしょう。

  • NH4+やCa2+、Mg2+の供給:栄養系ソイルで強い
  • その他各種ミネラルの供給:栄養系で強い

栄養系ソイルは各種ミネラルなどを意図的に焼結する前に混ぜていたりするので、栄養素の放出では強いソイルです。水草育成なら栄養系ソイルの養分を使うと水草が育ちやすいでしょう。

おすすめのソイル3選【栄養系・吸着系】

おすすめ栄養系ソイル

エナジーソイルは窒素・カリウム成分やその他微量元素をほどよく配合した栄養系ソイルです。

リーフプロソイルは普通の栄養系ソイルです。熱帯魚通販大手charmで使われているソイルの一つです。(charm楽天市場店

サプリソイルは栄養系ソイルの一つです。フルボ酸配合で、各種ミネラルとビタミン、アミノ酸が含まれており、「動植物の成長・産卵・繁殖・脱皮、バクテリアの活性化等を促進させ健康的な体の整形に役立ちます。」との商品説明です。

エビなどの飼育に良いと思われます。

おすすめ吸着系ソイル

スタンダードな吸着系ソイルです。性能もよく、各販売サイトでのレビュー数も多いのでよく利用されていると思われます。

こちらもスタンダードな吸着系ソイルです。ソイル1Lあたりの単価が若干安いです。

高額なソイルですが、最大の特徴は中性から弱アルカリ性にpHを固定できる点です。グッピーやプラティは中性から弱アルカリ性が生育に適したpHなので、普通のソイルを使うと弱酸性にしてしまってよくありません。

この製品ならこれらの卵胎生メダカに適したpHを維持しつつソイルのメリット(アンモニウムイオン吸着とか硝化によるpHの自然降下の抑制)が使えるので、使いどころを適切に見極めれば唯一無二のソイルと言えます。

まとめ【ソイルのpHを弱酸性に保つ性質の原因は主にイオン交換】

今回はソイルがpHを弱酸性に保つ効果について仕組みを解説しました。

主な原因はイオン交換です。土の性質がソイルに反映されています。

水草を育てたいなら栄養系ソイルを使うか吸着系ソイルに液肥を添加するのがいいですね

トロピカはNPKの3大栄養素とほぼすべての微量元素を含んでいます。