水槽トラブル・飼育方法

冬の水槽に毎日足し水すれば水換えと一緒?→ちょっと違う

水槽トラブル・飼育方法

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今回は冬に水槽の水の減りが速いので足し水しようというときに注意すべきことについての解説です。

乾燥すると蒸発のスピードは上がる

冬は水槽の水の蒸発スピードが上がります。

\(J=D_{g}v_{l}\frac{n_{sat}}{R}(1-H)\)

土井 正男, 蒸発と乾燥の物理学:蒸発による液体の運動と構造形成, 日本物理学会誌/73 巻 (2018) 8 号

ここで各記号の意味は以下となります。

J:蒸発スピード

Dg:空気中の水分子の拡散定数

vl:液中の水分子一個あたりの体積

nsat:飽和水蒸気圧

R:空中に浮かぶ水滴の半径

H:相対湿度

この式から相対湿度Hが低いと(1-H)が大きくなるので蒸発スピードが上がります。

つまり冬は空気が乾燥するので蒸発スピードが高いのです。

結果として水槽の水の蒸発スピードも上がり、「なんか結構水が減ってるなあ」と足し水することになるのです。

そこで「毎日結構足し水しているし、足し水の量を考えると週一回の水換えで水槽に入れてる水と量が変わらないなあ。じゃあ新しい水を入れているから水換え不要でしょ」と考えたくなります。

しかしながら以下で説明する内容で水換えは今まで通りやっておいた方がよいと思われます。

蒸発が起きても硝酸イオンやリン酸は水槽に残る

最初に述べておくと、硝酸イオンが不揮発性とかリン酸が不揮発性ということを詳しく扱った文献は見つかりませんでした(特に硝酸イオン)。それがあれば今回の蒸発による硝酸イオンやリン酸の濃度上昇の話は簡単だったのですが、無いものは無いのでちょっと違う方向から「たぶんそうだろう」くらいの話をするにとどめます。

まず自然界における窒素循環について考えます。

自然界に存在する硝酸は、大気から降水等を通じて地表に沈着する硝酸(大気硝酸)と、微生物がアンモニアの硝化反応を通じて作り出す硝酸(再生硝酸)に大別され、前者の大部分は地表から大気中に放出されたNOXを、後者の大部分は含窒素有機物(タンパク質やアミノ酸)を、その窒素(N)の起源として、地球表層圏内を循環している。

名古屋大学 研究成果発信サイト, 雨が降ると河川水中の硝酸が増えるのはなぜか?

まず河川水や海水が蒸発した水である雨水には硝酸イオンが含まれていますが、これは河川水などから供給されるわけではなく、自動車などの排ガスなどから排出される窒素酸化物が由来となっています。

また自然界の窒素循環においても、硝酸イオン内の窒素が大気に戻るには「脱窒」と呼ばれる硝酸イオンを窒素ガスN2に変換する現象が必要があるとしています。(参考:公益財団法人 環境科学技術研究所, 湖沼における窒素の循環

脱窒については以下で扱いました。水槽内で脱窒を再現するのは困難なのでこの影響はほぼないと言えます。

結局のところ硝酸イオンを含んだ河川水や海水が蒸発してもその中に硝酸イオンが混じっているということは考え難いと言えます。

つまり水槽の水が蒸発しても残った水槽の水の中には硝酸イオンが残り続けると考えられ、足し水しても硝酸イオンは足し水する前の量が残り続けると考えられます。

次がリン酸。

地球のリン酸の移動に関してはリンは不揮発性なので水中のリン酸は自力では陸上・大気中に戻ることができません。

しかし、リンは不揮発性であるため、海洋へ流れ込んだ溶存リンは、自発的には陸上に戻ることができない。

福地 庸平, 海洋性珪藻におけるリン酸獲得機構の解明, 関西学院大学大学院理工学研究科修士論文

つまり水槽から蒸発した水にもリン酸は含まれていないと考えられ、水槽に残った水中にはリン酸がそのまま残っていると考えられます。

pHは微妙

例えば塩酸が含まれた水を蒸発させるとビーカーには何も残りません。つまりpHの元であるH+も蒸発してしまいますので、蒸発によってpHは変化するでしょう。

ただ水槽に水酸化カルシウムなどが溶けた水なら、蒸発しても水酸化カルシウムが残るのでそれが再び水に溶けると再びpHを上げるということも考えられます。

つまり水槽内の水が蒸発するとpHが変化するかどうかはかなり複雑で、一概に上がる下がるが言えません。

ただ我が家の水槽の場合は足し水してもpHが次第に下がっていくので、飼育水と一緒に蒸発するH+が少ないのか、蒸発を上回るスピードで硝化が起きているかのどちらかだと思います。

足し水してもpHは下がることがあるので、pHを定期的に測ったほうが無難です。

足し水の注意点

足し水をするのは大切ですが、上で述べたように特に硝酸イオンとリン酸に関して蒸発しても除去できないので、コケの原因になったり、硝酸イオンに関しては多量で有毒だったりするので、水換えは春や秋のときのペースを守ってちゃんとやったほうが無難です。

pHは上がる下がるが簡単に言えないのですが、我が家の経験から下がることも多いと思われますのでやはり水換えで古い水を取り除き、新しい水を入れるというのは大切と思われます。

足し水で酸性を中和するスピードより硝化で酸性になるスピードのほうが速いと思われるので足し水だけではpHの低下を防ぎにくいです。1/3程度の水換えでpHを調節したほうがいいでしょう。

まとめ【足し水を毎日やるのは必要だが水換えは必要】

今回は特に冬に水槽の水の蒸発スピードが上がるから足し水するというときの注意を解説しました。

水が蒸発しても硝酸イオンやリン酸は一緒に蒸発してくれないので足し水だけでなく、水換えも継続したほうがよいでしょう。

水換えっていうのはやっぱり必要なんだね…