[PR]当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。
今回は水草水槽でのCO2の添加とエアレーションの関係について解説します。
エアレーションの効果については大枠を以下の記事で解説していますが、今回はその中でもCO2(二酸化炭素)を重点的に解説した内容となります。
水中にCO2を添加するとき何が起こっているのか
簡単に言うと「ガス交換」が行われています。
水槽の水とCO2の気泡との間ではCO2の授受が行われています。
この現象(単一気泡を対象)の理論式は以下となります。数式を読むのは結構面倒なので、この後のマーカーラインの場所から読んでいただいてもかまいません。
文献(1):堀 陽平, 電解質及び界面活性剤水溶液中 二酸化炭素気泡の物質移動に関する研究, 神戸大学大学院 工学研究科, 博士論文, 2020年, 式の内容を変形して記載.
\(\frac{dm}{dt}=k_{L}A_{B}(C_{L}-C_{S})\)
ここで文字の意味は以下となります。
kL[m/s]:物質移動係数
AB [m2]:気泡界面積(πd2)
AB = πd2
d[m]:気泡の球体積等価直径
CS [mol/m3]:気泡界面におけるガス濃度
CL [mol/m3]:液相中のガス濃度
m [mol]:気泡内ガスの物質量
t [s]:時間
ここから式の解説です。
水中のCO2濃度CLはCO2を添加しようと思っているくらいですから低いです。
それに比べて添加するCO2ガスの濃度CSは高いです。
つまりCS>CLなのでCL-CSは負となります。つまり気泡内のガスの物質量mは減少します。
つまり気泡から水中に対象のガスが移動します。そうなるとCLはどんどん大きくなっていき、CSに近づきます。するとガス交換はCL-CSがゼロになるのでCL=CSで止まります。
これが二酸化炭素が水中へ溶け込んでいる状態を数式で表した話になります。
またCO2の添加をやめてエアレーションした場合の話もしておきます。
この場合はガスが空気になってCO2濃度CSが低下し、水中のCO2であるCLは添加直後なので高い状態にあるのでCL>CSとなり、CL-CSが正になるのでmが増加します。つまり気泡にCO2が移動するので、水中のCO2濃度であるCLは減少します。そしてCSは大気のCO2濃度なので一定となっており、CL-CSはどんどんゼロになりCL=CSで止まります。
ここまで数式で小難しく解説しましたが、なぜ数式を使ったかというと、CL=CSで止まりますよ、ということが今後の話で重要だからです。
ここから以下のことが言えます。
- 添加中は添加ガスの濃度CSで止まる。つまり添加するCO2濃度が濃いとかなり溶け込んでしまう(CSが高いので水中のCO2濃度CLの増加がなかなか止まらない)
- エアレーションすると大気のCO2濃度CSで止まる。つまり添加していたCO2が空気中に逃げる
CO2中毒と水槽pHの降下
上の数式からCO2濃度CSが高ければどんどんCO2は水中に溶けていきます。
CO2が水中に溶けすぎているとCO2中毒という状態になって魚が危険にさらされます。ただしCO2中毒で何が起きているかというのははっきりした原理が確定しているわけではないようです。
HCO3–およびCO32-と CO2を比較すると,非荷電 CO2分子は生体膜を容易に透過し (Vandenberg et al.,1994), CO2は細胞区画内に拡散すると,偏在的な酵素である炭酸脱水素酵素の存在により速やかに炭酸を形成し,酸は即座にH+およびHCO3–に解離する。これにより引き起こされる細胞内アシドーシスは多くの生理学的プロセスに関与し (Roos and Boron, 1981),海洋生物にとって致死的な影響を与える可能性がある。
文献(2):吉川|貴志, 二酸化炭素が海産魚卵および仔稚魚に与える影響, 海生研研報,第 7号, 1-33,2004
つまりCO2濃度が上がると細胞内にCO2が入り込み、体内でH+の増加、つまりpHの低下を引き起こし、これが良くないらしいというのが一つあります。
CO2による細胞内pHの低下が心筋の収縮性を低下させることが,哺乳類をはじめ広く知られている18,19).
文献(3):石松 惇, 吉川 貴志, 林 正裕, 喜田 潤, 海水環境: 高二酸化炭素の影響, 日本海水学会誌/57 巻 (2003) 4 号
また以下の文献では酸素消費の減少も述べられています。
事実,\(P_{CO_{2}}\)20 mmHgの条件で43日問飼育した大西洋サケ(Salmo salar)では, 有意な酸素消費量の低下とともに, 成長が有意に低下したことが報告されている14).
文献(3)より
つまり高濃度CO2環境では酸欠になる可能性が示されています。
CO2中毒の症状として鼻上げ状態で水面の空気を取り込もうとする写真などがインターネット上に公開されている場合がありますが、それは酸欠状態の表れかもしれません。
CO2は原理的に水にpHが3.7程度まで低下する程度まで溶けるので、相当CO2を溶け込ませることができます(実際は様々な化学反応や用意できるCO2ガスの性能などのため限界まで溶けるのはなかなかない)。
ただ実験室レベルでpHが5.9になるまでCO2のみでpHを降下させることができている(文献(2)より)ので、相当CO2は飼育水に溶けるということは言えそうです。
条件A (pH6.2)では,CO2区の死亡率が卵85.8±7.7%,仔魚61.2±:21.8%で、あったのに対して,塩酸区では卵3.6±1.9%,仔魚が1.6±2.8%であった。
文献(2)より
pH6.2くらいにCO2が溶けていると、卵も仔魚も生存率が大きく下がることが示されています。
またpHが下がりすぎるのもpHショックと言われる症状を引き起こします。ただし、上の文献(2)にあるように、CO2でpHが下がる場合と塩酸などで化学的に普通にpHが下がる場合(例えば硝化作用などの場合)では生存率に大きな差が生じるので、CO2でpHが下がるというのはCO2独自のマイナス要素があると思われ、CO2で中性付近だったpHが6くらいまで下がると危険かもしれません。
実際我が家の水槽ではpHが6から7の間を行ったり来たりしてコリドラスや金魚、グッピーなどを飼育していますが、特に問題なく生きています。共通しているのはCO2をすべての水槽で添加していないということです。
水換え直後にpH7だったのに、CO2を添加しすぎてしばらくしたらpH6くらいまで下がったら気を付けたほうがよさそうです。
上の文献(2)によると、使用した海水のpHは8.13でCO2添加で6.2程度まで下がっています。
一般にpHは1程度大きく急激に変動するとよくないと言われているので、CO2添加で2程度phが変動する状況はあり得るので、水草水槽立ち上げ初期から安定するまではpHをこまめにチェックしてpH変動が大きくなりすぎていないか注意したほうがいいでしょう。
またCO2濃度を測る試薬なども販売されているのでそうしたものを利用してもよいと思われます。
エアレーションするとCO2は大気に逃げる
上の数式で空気を水中に送り込むエアレーションをすると水中のCO2濃度は低下していきます。
これがエアレーションすると酸性物質のCO2がなくなってアルカリ性に傾いてpHが上昇するからよくないという話で語られることもあります。
ただしpHは無限に上がるわけではなく、大気のCO2濃度CSになれば止まります。
警戒すべきはたくさんCO2を溶け込ませた後に急にエアレーションする場合です。CO2のみでpHを2程度変化させることが可能なので、これを一気に夜間エアレーションでなくしてしまうと一気にpHが上がるという状況も考えられます。
後述するように消灯後のエアレーションは推奨ですが、たくさんCO2を添加している場合はエアレーション開始してしばらくした後pHを消灯後に測ってみて、もしpHの変動が大きいなら、ライトを消灯する1時間くらい前にCO2の添加を終了し、光合成が続いているけどCO2を添加していない状況を作って水草の光合成である程度CO2を使ってもらってCO2を減らしてpHを多少上げて、それからライトを消灯してエアレーションを開始してCO2を抜くみたいにすればよさそうです。
緩やかにpHを上げてみてはどうでしょうという話です。
ただし結局pHが2程度上昇するようならCO2が多すぎるとも考えられるので添加量を見直したほうがいいかもしれません。
ここでCO2を水草に消費させたらpHが上がると簡単に書きましたが、原理としては以下の化学平衡から説明ができます。文献(4):河野 健, 海洋酸性化研究の動向, 科学技術動向 2010 年 2 月号.
- CO2+H2O ↔ H2CO3 (1)
- H2CO3 ↔ H++HCO3- (2)
- HCO3- ↔ H++CO32- (3)
化学平衡の状態では左辺が減少すると右辺も平衡を保つために減少するので(化学平衡の法則、正確には左辺と右辺のモル濃度の比が一定になる)、(1)式で左辺のCO2が減少すると右辺のH2CO3も減少します。
そして(2)式の左辺が減少することになり、(2)式の右辺のH+も減少します。つまりpHが上がります。
またエアレーションするとせっかく添加したCO2が抜けてしまうのでCO2添加とエアレーションは同時に行わないほうが基本的にはよいでしょう。
なぜ基本的にと注意書きしているかというと、後述するように油膜が張った場合は魚に酸欠が起きやすいので絶対にやらないほうがいいというわけでもないからです。
CO2中毒になったら
エアレーションは水中のCO2を抜く効果がありますが、ある程度抜けるまで数時間を要します。
CO2中毒で鼻上げ状態になった熱帯魚を数時間その状態に保つと命の危機ですので、すぐに80%程度の水換えで強制的にCO2を水中から抜きましょう。
またCO2で酸欠になっている状態は水中の酸素の欠乏というよりはCO2による酸素消費能力の低下が原因のため、エアレーションで酸素を増やしても根本的なCO2の害がなくなっていないのでCO2中毒のときにエアレーションで酸素を増やせばいいという話にはならないと思われます。
油膜対策
油膜は水面からの酸素供給を阻害する可能性があるので、放っておくとよくありません。
油膜は酸素の少ない状態で発生しやすくなります。
水草水槽は水面を揺らさないほうが二酸化炭素が逃げにくいので、外部フィルターなどの吐き出し口は水面より下に設置する場合が多いです。
しかし水面を揺らさないと水面からの酸素供給である再曝気効果が得られず、酸素不足になりがちです。
つまり水草水槽では酸欠になりやすく、油膜を分解する好気性のバクテリア不足になって油膜が発生しやすくなります。
苦肉の策として一時的に多少CO2は抜けますが、油膜対策でエアレーションするというのも必要になってくると思われます。
それをしないなら油膜取りなどを使って油膜を除去することになるでしょう。
水草水槽で夜間のエアレーションは有効
水中には水草や光合成をするバクテリアが存在します。
これらは光が当たっている日中は光合成で二酸化炭素を酸素に変換しているわけですが、光がなくなって光合成がなくなる夜間になると、呼吸によって水中の酸素を消費して二酸化炭素を排出します。
水草水槽では酸素を供給する要素をなるべく排除してCO2が逃げないようにしているので、水槽内の酸素供給が滞りがちです。
すると夜間酸欠になりやすく、これを夜間のエアレーションで酸素を供給することで解決するという手法がよく解説されています。
つまり,海面の限られた容量の水の中で魚類などを集中して飼育する場合(その典型例が魚類養殖場である),夜間には,その水に含まれる植物プランクトンの呼吸と飼育されている動物の呼吸が重なり,酸素濃度の低下を引き起こすことを示している.
堤 裕昭, コンパクトなマイクロバブル発生装置を利用した内湾の酸素濃度低下防止, マリンエンジニアリング/46 巻 (2011) 6 号
夜間はCO2の添加をやめ、エアレーションするとよいでしょう。
これの何がいいかというと、夜間は光合成がなくなるので、CO2を添加してもCO2は水中で消費されず水中に溜まるスピードが上がります(水生植物やプランクトンや魚の呼吸+添加するCO2)。
するとCO2中毒の危険性が上がります。なので夜間のCO2添加は止めましょうというのが一点(水生植物やプランクトンや魚の呼吸のみのCO2排出になる)。
次にエアレーションすることで酸素が供給され、ろ過バクテリアである好気性バクテリア(酸素を消費して活動する)の活性が上がり、ろ過不足になりにくい点もあります。
水草水槽は夜間のエアレーションを行うといいでしょう。
様々な生物の呼吸によってCO2濃度は夜間も上がりますが、エアレーションしているのでCO2が抜けていくので過剰にならないわけです。ついでに酸素も供給され魚の酸欠も予防できます。
夜間のエアレーションなら酸素供給が目的なので泡が細かいほうがよいです。
エアストーンならいぶきのエアストーンがおすすめです。泡が細かいという評判が多いです。
日中はエアレーションしなくてもあまり問題はない
水草水槽には水草がたくさん入っているし、ライトの光も強力なので光合成が活発に行われます。
すると添加したCO2を消費して酸素がたくさん水中に供給されるのであまり酸素不足にはなりにくいと考えられます。
ただし水草の量が少なかったりするとやはり酸素不足やCO2過剰になる可能性もあるので、そういうときはエアレーションも考えたほうがいいかもしれません。
もちろん光合成の効率は多少下がって、CO2も多少無駄になりますが。
まとめ【CO2は添加しすぎるとマズイ・夜間はエアレーションを】
今回はCO2とエアレーションの関係について解説しました。
CO2を添加しすぎるとどうなるかという話から、エアレーションとの関係について解説しました。
水草水槽なら夜間にエアレーションすることでメリットもあります。
うまくエアレーションを使って水草水槽を安定できるお手伝いができましたら幸いに存じます。
水草水槽ではないなら基本的に常時エアレーションをしたほうがいいよ!