夏の管理

水槽の冷却ファンの効果向上のために氷を使う必要はない

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今回は水槽の冷却ファンの効果を上げるために、冷却ファンと凍らせた保冷剤を組み合わせるとどうなるかという内容です。

結論から言うと氷を使わなくても気化熱の寄与が大きいので氷を使わなくても問題ないです。

冷却ファンだけでは力不足なのだろうか

私は過去に水槽の水面にUSBファンの風を当てて水槽の冷却を試みたことがあります。

しかしながら思ったほど冷えないので、水槽用クーラー→部屋丸ごとエアコン・凍らせたペットボトルと推移していきました。

ただし、ペットボトルでの冷却はある程度人間が水温を見ながら加減する必要があり、水温の上下が観賞魚に良くないという視点でペットボトルを使いたくない、という場合もあるかと思います。ちょっと水槽のことを忘れていると冷えすぎる、なんてこともないことはないですからね。

でもエアコンは電気代がかかりますし、そうなると消費電力が低い冷却ファンくらいが選択肢として有望です。冷却ファンならファン用のサーモスタットが売っているので、簡単に指定温度付近をキープしてくれます。

しかしながら上述のように冷却ファンの能力は微妙です。

例えば以下のサイトで冷却ファンを利用した実験が行われていますが、思ったほど成果が上がっていないようです。

夏間近!冷却ファンで水槽の水温をどこまで落とせるか実験してみた。」(ドリリウム)

冷却ファンの冷却能力は何ワットくらい?

ちょっと計算してみます。

水の蒸発速度を求める必要があり、簡単ではないのですが、簡単のため以下の二つの計算サイトの値を参考にしてみます。

5.739e-5[kg/m2・s](工学計算.com, 水の蒸発速度, 気温30℃ 湿度50% 液温28℃ 風速2m 水面代表長さ0.3mで計算)

1.6057988e-8[m/s](CATTech.LAB Co., Ltd., 水の蒸発速度を計算, 温度30℃ 湿度50% 風速2m 水面長さ0.3m 水深0.4mで計算)

この時a1=5.739e-5[kg/m2・s], a2=1.6057988e-8[m/s]としてみます。a1のときとa2のときは蒸発量の計算方法が違うので、この二つの計算方法で場合分けして考えていきます。二つの仮説で計算するということです。

①a1の値を使うとき

このとき水面の面積は0.3m×0.3m=0.09m2となります。

すると蒸発量は5.739e-5×0.09=5.165369999999999e-06[kg/s]

1時間では5.165369999999999e-06×3600[s]=0.018595332[kg]=18.6[g]

この量の水が蒸発します。

水の気化熱を2461[J/g]とすると1時間で18.6[g]蒸発するので

2461×18.6=45774.6[J]

の熱量が冷却に使えます。

ここで1時間の値だったので、1秒に換算すると

45774.6÷3600[s]=12.7[J/s]=12.7[W]

以下の記事で35℃の空気と28℃の空気の伝熱量は15.2[W]程度と計算できました。

つまり飼育水が蒸発するときの気化熱は12.7W程度、外気温で水槽を温める熱が15.2W程度。

つまり猛暑35℃のときの外気温が温める力のほうが気化熱での冷却力を上回っているので、いつまでたっても冷却できません。

あくまで「計算上は」、「35℃の猛暑の時は」ですが。メーカーで3℃マイナスとあったりするので、実際の計測結果ではまた違うのかもしれません。

以下で計算していきますが、35℃の空気が28℃の飼育水を温めるから冷却力が足りなくなります。

室温30℃程度で28℃の飼育水を温める能力を計算すると、気化熱のほうが上回るので水槽はゆっくりと冷えていく計算です。

②a2の値を使うとき

1.6057988e-8[m/s]で蒸発するので、これに面積0.09m2を掛け算すると

1.44521892e-09[m3/s]

の水が蒸発します。

これは1.44521892e-09×1000[L/s]=1.44521892e-6

なので、

1.44521892e-6×1000[g/s]=1.44521892e-3[g/s]

水の気化熱を2461[J/g]として

1.44521892e-3×2461=3.56[J/s]=3.56[W]

となります。

すると外気温で水槽を温める熱が15.2W程度なので、やはり冷却能力が外気温で温まる勢いに負けてしまいます。

この仮定はやや悲観的な仮定でしょうけど、後述する30℃の空気と28℃の飼育水の伝熱量が4.35[W]程度なので、この悲観的な仮定の場合は水温と室温の温度差が小さくても気化熱では力不足となる場合もあるかもしれませんね。

とはいえ室温が30℃程度なら冷える可能性が高い

上の高温空気と飼育水の伝熱量15.2W程度というのは35℃の空気との伝熱だったので、室温が下がれば伝熱量は下がります。

各種パラメータの説明は上の記事を参照ということにして、温度差の部分だけ(30℃-28℃)として計算しなおすと

Q=0.48(30-28)÷((1÷4.65)+(0.005/1.6)+(1÷405))=4.35[W]

すると①の場合の12.7[W]より小さい伝熱量となり、「おや?冷却ファンの気化熱だけでいけるのでは?」と考えることができます。

要するに、室温が猛暑中の猛暑となる35℃以上では冷却ファンでは無理っぽいですが、30℃程度の室温のときに28℃程度の水温にしようとするなら冷却ファンで行けそうな感じです。

この場合冷却能力は12.7-4.35=8.35Wとなります。

8.35Wで飼育水が1時間で何度下がるか計算してみます。

水の比熱を4.18[J/g・K]とします。水槽の体積は0.3m×0.3m×0.4mのHigh水槽とします。この体積は36Lなので36kgと考えます。

よって飼育水のパラメータは4.18×36×1000=150480[J/K]となります。1[K]すなわち1[℃]上げるのに150480[J]必要ということです。

よって8.35[W]=8.35[J/s]なので

8.35/150480=5.548910154173312e-05[K/s]

一時間、すなわち3600秒では

5.548910154173312e-05×3600=0.2[K]=0.2[℃]

二時間くらい待てば0.4℃となり、少しずつ水温は低下していく計算ですね。

じゃあ冷却ファンに氷の力を使ってみる?

冷却ファンだけでは冷却能力が微妙な可能性があるので、もっと冷却能力を上げる方法はないのか。

そう考えてみると、ファンの空気の吸入口に氷を置いてみたらどうなるか。

ファンが送り出す空気が冷たければ冷却能力が上がります。これなら水槽をもっと冷却できるかもしれません。

なおそれなら直接氷を浮かべたほうが早い気もします。

しかしながら、ファンの最大のメリットはファン用のサーモスタットと組み合わせることで、ある一定の温度まで水温が下がったら自動停止するという点です。温度調整の手間が少なくなるのです。

保冷剤を入れ替える手間がかかるため、仕事に行っている間は使えない方法ですが、休日ならこの方法もありかもしれません。

というわけで、冷却ファンと保冷剤を組み合わせた方法で実験していきます。ただ実験してみた結果ですと、30分に一回くらい保冷剤を交換する必要があるので、結構面倒ではあります。

平板強制対流熱伝達

ここでは伝熱学の理論から数学的に氷を用いた冷却ファンがどのくらいの冷却能力を持っているのかを計算していきます。

氷で冷やされた冷却ファンの空気の温度は後述する実際の計測結果から27℃としました。水槽の水温は29℃としました。

これは平板強制対流熱伝達とみなせます。

詳細は以下をご覧ください。

参考1:CATTech.LAB Co., 平板の熱伝達率の計算(強制対流熱伝達)

参考2:明治大学, 第7回 対流熱伝達

詳細は上記に譲りますが、各種パラメータを計算していきます。

動粘性係数:1.604×10-5[m2/s]

代表長さ(平板の長さ):0.3[m](40cmHigh水槽なので水面一辺の長さとしました)

流速:2[m/s]

このときレイノルズ数Reは

Re=(2×0.3)÷(1.604×10-5)=37406.5

層流の境界がRe1=5.0×105程度なので、層流と仮定できます。

するとヌセルト数Nuはプラント数をPr=0.71として

Nu=0.664Pr1/3Re1/2=114.6

ここから平均熱伝達率aは空気の熱伝導率を0.0257[W/m・K]として

a=(0.0257/0.3)×114.6=9.82[W/m2・K]

よって伝熱量は

Q=a×(0.09[m2])×(29-27)=1.77[W]

仮定①の蒸発に伴う気化熱は飼育水の温度が29℃で空気の温度が27℃程度になるので、再計算して

7.556e-5[kg/m2・s](工学計算.com, 水の蒸発速度, 気温27℃ 湿度50% 液温29℃ 風速2m 水面代表長さ0.3mで計算)

このとき水面の面積は0.09m2となります。

すると蒸発量は7.556e-5×0.09=6.800400000000001e-06[kg/s]

1時間では6.800400000000001e-06×3600[s]=0.0245[kg]=24.5[g]

この量の水が蒸発します。

水の気化熱を2461[J/g]とすると1時間で24.5[g]蒸発するので

2461×24.5=60294.5[J]

の熱量が冷却に使えます。

ここで1時間の値だったので、1秒に換算すると

60294.5÷3600[s]=16.7[J/s]=16.7[W]

27℃の空気と飼育水29℃の伝熱では1.77[W]程度だったので、気化熱16.7[W]の寄与のほうが大きいです。

温度差が同じ2℃なので4.35[W]という室温と飼育水の伝熱を想定して、冷却能力は(16.7+1.77)-4.35=14.12[W]と考えられます。すると

14.12/150480=9.383306751727804e-05[K/s]

一時間で9.383306751727804e-05×3600=0.34[℃]

となります。

ファンだけ回したときと冷却能力に大差ないですね。多少は冷却能力が上がるけど、劇的に向上するほどでもない、みたいな感じです。

実験①ファンに凍らせた保冷剤を用いた場合

理論では一時間で0.34℃と出ましたが、実際はどうなのか。実際に実験してみました。

ダイソーのUSBファンに凍らせた保冷剤をセットして、水面に向かってファンを回します。ファンには冷却ファン用のサーモスタットをつなげて、水温センサーを水槽内に垂らします。実験したのは40cmHigh水槽です。

結果は以下のようになりました。

時間水温室温
開始29℃29℃
30分後28.7℃29.2℃
60分後28.4℃29.2℃
ファン排気空気の温度は27.1℃程度だった。

1時間で0.6℃程度の低下です。だいたい計算した結果(0.34℃)と一致しますね。ファンの空気は完全な層流とは言えないでしょうし、室温と水温の差が小さいので室温から飼育水への伝熱量が減ってこのような結果になったのでしょう。

実験②ファンだけで冷却した場合

気になるのがファンだけで冷却した場合の結果でしょう。

上と同じ条件でファンに凍らせた保冷剤を搭載させずに実験してみました。なんとなく90分後まで実験してみました。

結果は以下となりました。

時間水温室温
開始28.9℃29.5℃
30分後28.7℃29.4℃
60分後28.4℃29.1℃
90分後28.1℃28.9℃

1時間で約0.5℃の低下となりました。室温の変化量より水温の変化量のほうが大きいのでちゃんと蒸発して気化熱が冷却していると考えられます。

だいたい計算した値(0.2℃)と値のオーダーではズレていません。凍らせた保冷剤を使ったとき同様に、室温と水温の差が小さいので、室温から飼育水への伝熱が下がったことや水槽という特殊な形状から完全な層流ではないということが影響していると考えられます。

とはいえ計算したくらいの水温の変化となりましたね。

凍らせた保冷剤を使って一時間で0.6℃、保冷剤なしで0.5℃の温度低下だったので、氷を使う必要はあまりないという結果となりました。

だいたい計算したときに導いた結論と同じような結果が得られました。

まとめ【冷却ファンには氷はいらない】

今回は冷却ファンの性能が実際のところどうなのか、という疑問から始まり、その性能向上に凍らせた保冷剤を使ったらどうだろう、と考えて計算と実験を行いました。

計算結果や実験結果から保冷剤は不要のようです。

また冷却ファンもそれなりに冷却能力がありました。結局のところ室温から飼育水への伝熱量がどのくらいかという条件で冷却ファンの気化熱が通用するかどうかが変わるということです。

下のテトラの冷却ファンならサーモスタットも同梱されているので、別売りのファン用サーモスタットを買わずに済むのでいいかもしれませんね。水槽にクリップで留められるので100均のUSBファンよりは使いやすそうです。

室温と飼育水の温度差が小さいときは確かに2℃か3℃くらいは下がるかもしれませんね。

確実に安全に飼育水の温度を下げたいなら部屋のエアコンをつけっぱなしにするのが一番でしょうけど、電気代を考えて、超絶猛暑ではないときに冷却ファンを採用するというのは賢い選択かもしれません。

室温30℃くらいで結構暑いなって日に、水温が29℃とか30℃のときに冷却ファンを使うのはアリだね。

水温を下げる方法全般はこちらの記事をご覧ください。