水槽トラブル・飼育方法

水槽のエアレーションはしすぎるということはない

水槽トラブル・飼育方法

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今回は水槽のエアレーションをしすぎる(過剰)という状態があるのかという内容に関する解説です。

エアレーションをしすぎるとよくないと言われる事例

エアレーションのマイナス面から以下の4点についてエアレーションはしすぎると良くないと言われることがあります。

  • 酸素が溶け込みすぎる
  • 泡が細かすぎるとよくない
  • CO2が逃げる(CO2濃度の低下とpHの上昇)
  • 強すぎ厳禁

酸素が溶け込みすぎる【実際は適当な濃度で止まるので増えすぎということはない】

まず当然ながらエアレーションする目的の大半は水中に酸素を溶け込ませるというものです。

エアレーションするときの水中への酸素の溶け込みを表す理論式は以下となります。詳細は以下の記事もご覧ください。

\(\frac{dC_L}{dt}=K_{L}a(C_{s}-C_{L})\)

ここで各種記号の意味は以下となります。単位の表現は意味が変わらない範囲で多少変えています。

CL:水中の溶存酸素濃度[mg/L]

t:時間[s]

KLa:総括物質移動容量係数[1/s]

Cs:水中の飽和溶存酸素濃度[mg/L]、つまり水中に溶け込む酸素の限界量

この式から水中の酸素濃度がCsより小さい、つまり限界溶出量以下なら水中へ酸素の供給が行われます。

しかしながらそれによって水中の酸素濃度は上昇するのでCs-CLはどんどん小さくなっていき、水中の酸素濃度がそれ以上溶けない限界量Csに到達するとそれ以上酸素は溶けなくなります。

つまりエアレーションしすぎて酸素が増えすぎるということはなく、Csに到達すれば酸素は溶けなくなり、Csの酸素濃度では魚は十分生活可能です。

追記:溶存酸素量は自然条件では過飽和、つまりCS以上になることが確認されていますが、エアレーションで空気を送る程度ではその状況にならないことが実験で示されています。

その結果から,空気の吹き込みや激振混入法では,DOはあまり変化せず,このぐらいの実験条件では過飽和状態にはならないことがわかった.

高岡 和則, 吉村 忠与志, 環境測定における過飽和溶存酸素への一考察, 環境技術/9 巻 (1980) 11 号

泡が細かすぎるとよくない【賛否両論ある】

泡が細かすぎるとよくないという話も聞きます。ディフューザーで細かい泡をシュワシュワ水中に送るとかえって生体の元気がなくなるというものです。

例えば以下の記事ではイソギンチャクに良くないという話がされています。

サンゴやイソギンチャク達は 、 細かな泡が 体に着くのを 極度に嫌がる。 泡が サンゴやイソギンチャクの粘液を はぎ取ってしまうのだ。

くまぱぱのブログ, 細かな泡をジェットのように吹き出すと・・・・・

確かに細かい泡はイソギンチャクの表面の微細な表面に入り込み、そこを集中的に泡で削るので、粘膜を高圧ジェットで洗浄除去するような形になり良くない、というのはあり得そうです。

ただし高圧ジェットのような使い方をしなければ魚を洗浄するような形になることもなく、泡が細かいほど酸素もよく溶けるというプラスの面もあります。

またプレコなどは水流とたくさんの溶存酸素を必要とするので、水流と細かい泡の組み合わせが絶対悪というわけでもないのです。

実際プレコなどは渓流のシュワシュワした流れを好むと言われており、細かい泡をジェットでシュワシュワするというのが悪くない場面もあります。

ディフューザーや細かい泡の出る目の細かいエアーストーンを使った程度の細かさなら特に影響がないことも多いでしょう。酸素もよく溶けて良い影響がある場合も多いです。

ただ上のイソギンチャクの例と多少かぶりますが、ものすごく細かい「ファインバブル」と呼ばれる泡になると話は変わってくるようです。

水質改善の策としてマイクロメートルサイズの泡を水中に溶存させることで、溶存酸素量を増やしただけでなく、牡蠣の生育促進につながった。

江藤, 学; 吉岡(小林), 徹, 「科学」不足によるイノベーション阻害 : ファインバブルの事例

ファインバブル技術には、生物活性効果、洗浄効果、殺菌効果などがあり、それらは立証されている。

新井 喜博, 加速するファインバブル技術の産業化, 旭リサーチセンター, 2016年

泡がとにかく細かいので酸素は大量に効率的に水中に溶け込むのは間違いありません。

しかしながら洗浄効果や殺菌効果があるので、魚のエラなどに対する影響がはっきりしません。酸素を供給するのだからいいだろうと単純に考えるわけにはいかず、牡蠣ではうまくいったようですが、魚なら何でもファインバブルで健康になるのか、と言われるとファインバブルの濃度などにも影響されそうで、とにかくファインバブルを入れればいいのかと言われると微妙です。魚の養殖では成功している文献がありますが、水槽の熱帯魚という閉鎖空間で様々な熱帯魚にファインバブルを使ってみたという実験はないのです。

魚介類のエラにマイクロバブルが吸着すると、キャップ効果が働き、溶存酸素を吸引できなくなり、魚介類の活性力が極端に低下し、死んでしまう場合もある。
マグロ、カンパチ、ブリ、ハマチ、鯛、鮃などの養殖ではこの現象が顕著に現れ、鰓毛の隙間が100nmといわれる大量の海水を吸引する牡蠣などにもこの現象が認められている。

トスレック株式会社 ファインバブル事業部, 当社ファインバブル発生技術のご紹介

つまり突き詰めると無限に泡を細かくすれば魚に良い働きをするというわけでもなさそうだということです。どこかにこれ以上細かいとダメみたいな気泡径が魚ごとにありそうです。

上のキャップ効果を解説したサイトでは泡の径を均一にすることでこの効果を避けているようですが、他社のすべてのファインバブル製造装置で均一径というのは保証されていないので、キャップ効果が現れる場合もあると思われます。

また生体の種類(イソギンチャクなのか、プレコなのか等)にもよりますし、泡の当て方(イソギンチャクに直接ジェットを当てるなど)にもよるでしょう。

CO2が逃げる

これもよく言われることですが、エアレーションするとCO2が逃げます。

任意のガス種に対する単一気泡の水中への溶出に関する理論式として以下の式があります。(文献(1):堀 陽平, 電解質及び界面活性剤水溶液中 二酸化炭素気泡の物質移動に関する研究, 神戸大学大学院 工学研究科, 博士論文, 2020年, 式の内容を変形して記載)

\(\frac{dm}{dt}=k_{L}A_{B}(C_{L}-C_{S})\)

ここで文字の意味は以下となります。

kL[m/s]:物質移動係数

AB [m2]:気泡界面積(πd2

AB = πd2

d[m]:気泡の球体積等価直径

CS [mol/m3]:気泡界面におけるガス濃度

CL [mol/m3]:液相中のガス濃度

m [mol]:気泡内ガスの物質量

t [s]:時間

普通水中に二酸化炭素が多く溶け込んでいる場合、そこに低二酸化炭素濃度の大気を送るとCL>CSなのでmは増大します。

つまり気泡のガス濃度が増える、つまり水中の二酸化炭素が気泡に移る、すなわち水中の二酸化炭素濃度が下がると言えます。

CSはエアレーションで大気から取得されるので、二酸化炭素濃度は一定です。

つまりCLはどんどん小さくなっていき、CL-CSはゼロに近づきます。

これを大気平衡と言ったりします。(正確には海洋で大気と海水のCO2の移動量が平衡状態になったとき、つまり見かけ上移動が止まっているように見えるときを大気平衡と言いますが、今回はエアレーションによりCO2の移動量がなくなった時を大気平衡としています)

採水時のpHが7.77であり,エアレーション開始後, 徐々に上昇し,2時間後pHは7.98とほぼ一定となった. pHが一定の値を示した時点を大気平衡とした.

文献(2):藤井 智康, 藤原 建紀, 大阪湾奥部における二酸化炭素の長期連続観測, 土木学会論文集B2(海岸工学)/68 巻 (2012) 2 号

つまり上の文献(2)でやっていることは、CO2がエアレーションされることで水中からなくなっていくと、酸性物質であるCO2が減るのでpHが上がりますが、それは上の大気平衡の状態になることでCO2の減少がなくなるため、pHの上昇もなくなるという状態を作っているということになります。

この話を裏付けるように二酸化炭素が含まれていない蒸留水をエアレーションするとpHは二酸化炭素の溶け込みで下がります。

pHは給気量の増加に伴い,蒸留水を除く3種類は増加,蒸留水は低下した.これは,蒸留水の場合,水面から溶け込むCO2の影響でpHが低下し,他の三種類の水では試験開始時に溶存したCO2が酸素の増加により大気中に排出されpHが増加したと考える.

木俣 陽一, 京藤 敏達, 歌川 紀之, エアレーションによるDO増加過程に 気泡径および水質が及ぼす影響の研究, 水工学論文集/51 巻 (2007)

このように二酸化炭素が多く含まれた水槽中でエアレーションすると二酸化炭素が減少します。すると以下の二点でデメリットがあります。

  • せっかく添加した二酸化炭素が水中から逃げる
  • pHが上がる(ただし上の話のようにある程度のところで止まる)

エアレーションするとせっかく添加した二酸化炭素が逃げます。これはよくないですよね。

また二酸化炭素がある程度溶け込んだ水をエアレーションするとpHが多少上がります。pHの大きな変動は良くないです。pHショックと呼ばれ、魚へのダメージを与えます。

実際はそれぞれの水槽でpHの変動を観察して、pHが1違うくらいなら注意したほうが良いと言われています。

もし何らかの理由でCO2を添加しているのにエアレーションをしなければいけない場合はpHにも注意したほうがいいでしょう。

実際はCO2の添加の意味がなくなってしまうので、そのような状況になることはほぼないと思いますが。

結局エアレーションし続けているとCO2の添加の意味がなくなるので、エアレーションだけすればいいという話になりますし。

注意しないといけないのは、pHがある程度のところで止まるのはCO2が抜けた分だけなので、硝化が進んでpHが下がった水槽ではpHが上がると言っても酸性のどこかで止まるということです。

エアレーションでアルカリに傾くから放っておくとどんどんpHが7以上のアルカリ性になっていくというわけでもなく、硝化の進み具合や水槽に入れている石や貝殻の破片などによるpH変動など、水槽のpHを変える要素はたくさんあり、それらすべてを考慮して水槽のpHを管理する必要があるのです。

またCO2を添加している間は水草の光合成で水中の酸素濃度が上がるのでいいのですが、照明が止まって光合成が止まると水草は呼吸によって酸素を使ってCO2を放出するので、夜間はエアレーションして酸素不足を補ったほうが魚の呼吸や好気性のろ過バクテリアに良いというのも付け加えておきます。

強すぎは魚の体力を奪う

特にメダカなどの緩やかな流れを好む魚は強すぎるエアレーションで水槽が激しい流れになると体力を奪われて弱る場合があります。

魚の種類に合わせてエアレーションの強さを加減したほうがいいでしょう。

まとめ【普通のエアレーションなら過剰になることはない】

これまでの話をまとめると、最初に挙げた4点のデメリットに関して普通にエアレーションすれば大きな問題はないと言えます。ただし泡の細かさは影響がある可能性があるので、調子が悪くなったら気泡径を見直したほうがいいかもしれません。通常の魚用エアストーンなら特に問題ないと思います。

  • 酸素が溶け込みすぎるということはない(上限で止まる)
  • 魚種によって細かすぎるのはよくない・泡の当て方に注意が必要な可能性がある
  • CO2を添加しているときにエアレーションしなければOK
  • 魚の種類に合わせてエアレーションの強さを加減したほうがいい

エアレーションのタイミングを適切に管理すれば、通常のエアレーションをしすぎて問題になることはありません。ただし泡の強さは魚種によって適切な範囲があります。強すぎるエアーポンプもあるので水槽内の水流の強さには気をつけましょう。

適切にエアレーションを利用して魚が住みやすい環境を整えてあげましょう。

基本的に水草水槽以外ならエアレーションしておいた方がいいですよ