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今回はゼオライトとpHの関係について書いていきます。
ゼオライトとpHについて一般的に言われていること
ゼオライトはpHを下げる、これは飼育水の硬度を下げるからだという話がされることがあります。
ただ話はそう単純ではなく、pHが高いときと低いときのゼオライトの挙動が違うので結構複雑です。
結論を最初に書くとゼオライトの性質としては以下となります。
pHが高いとpHに影響を及ぼさない。pHが酸性から中性くらいだとpHを上げる・下がりすぎないように調節する機能がある
ゼオライトとpH
ゼオライトがpHに影響を与える要素として以下の二つがあります。
- 陽イオン交換
- アルカリ性物質
ゼオライト自体が強いアルカリ性を示し,ナトリウム型ゼオライトの方がカルシウム型よりもアルカリ性が強いことがわかる。また,スラリーの初期pHを酸性とした場合には中和反応が生じる。これは,水溶液中でH+イオンとの陽イオン交換反応が起こることによってH+イオンが奪われること,あるいは未反応のアルミノシリケートに含まれるOH–イオンに起因することが考えられる。
(1)村山 憲弘, 山川 洋亮, 小川 和男, 芝田 隼次, 石炭灰フライアッシュからのゼオライトのアルカリ水熱合成と生成物の陽イオン交換特性, 資源と素材/116 巻 (2000) 4 号
ゼオライトには陽イオン交換作用があり、水中の陽イオンをゼオライトのNa+やCa2+と交換します。
またアルカリの物質です。ゼオライトの組成は色々あるのですが、基本的にナトリウム型とカルシウム型が存在し、それぞれのゼオライトにはそれらの化合物であるNa2OやCaOが存在します。
ゼオライトは結晶性のアルミノケイ酸塩であり,主要な化学組成は SiO2,Al2O3,H2O,Na2O,K2O,CaO である。
一般社団法人粉体工学会, ゼオライト
例えばCaOと水との反応式は以下となります。
CaO+H2O→Ca(OH)2
消石灰の反応です。Ca(OH)2は水酸化物イオンを含むので水に溶けるとpHをアルカリにします。
おそらくゼオライトはアルカリの物質であるというのはこういうところからそう言えるのでしょう。
pHが高いときの挙動
pHが高いときはあまりpHに影響を与えません。文献(1)の図11によると、pHが9~11のアルカリ性の区間でナトリウム型カルシウム型双方でpHは変動していません。
ただしpH7ではpHを1~2程度上昇させる効果があります。
pHが低いときの挙動
pHが低いときは文献(1)の図11より、pHを上げる作用があります。その変動幅はpHが7の時よりも、pHがより低い4の時の方が大きくなっています。
pHが低いということはH+イオンの量が多いので陽イオン交換が盛んに行われH+イオンをより吸着するためと思われます。
中性の水道水でゼオライトはpHを下げる?
軟水化はナトリウム型で強い
基本的にゼオライトはナトリウム型です。それをカルシウムと反応させるひと手間はコストが高くなります。もちろん最初からカルシウム型のゼオライトが産出される場合もあるにはありますが(文献(2)の表1より)。
ただしカルシウム型にも利点はあって、ナトリウム型は陽イオン交換が行われる際にナトリウムイオンを放出するので例えば土壌に添加すると塩を撒いているのと同じ状況になり作物によくない影響を与えます。
またゼオライトの再生には食塩が利用されていることがあります。
再生は次式で示されるようにゼオライト中のNH4+がNa+によって交換脱着することを示す。
大森 保幸, 細井 由彦, アンモニウムイオンを交換吸着した天然ゼオライトの飽和食塩水による再生条件の簡易設定に関する検討, 水環境学会誌/23 巻 (2000) 12 号
Z-NH4++Na+⇒Z-Na++NH4+ (2)
ここでZはゼオライト
つまり基本的にゼオライトの陽イオン交換のかなめになるのはNa+と考えられます。
Na+を利用すれば簡単ですが、農業にはカルシウム型のゼオライトが適しているので、農業用のゼオライトなどではカルシウム型も販売されているかもしれません。陽イオン交換でCa2+が放出されてもカルシウムは植物に必要な栄養素ですからあまり問題にならないのでしょう。
ただどちらのタイプのゼオライトかというのは普通商品説明に書かれていないので、ナトリウム型、カルシウム型双方での影響を考える必要があります。
まずナトリウム型。これは陽イオン交換作用でカルシウムイオンやマグネシウムイオンを吸着しナトリウムイオンを放出するので水の硬度を下げます。軟水化するのです。硬度はCa2+とMg2+の量で定義されるのでナトリウムイオンを放出しても硬度には影響がありません。
その中でミネラル含量によって区分される指標を硬度と言い,水中にあるカルシウムイオン(Ca2+)とマグネシウムイオン(Mg2+)の合計量をそれに相当する炭酸カルシウム(CaCO3)の量に換算して示されるものである。
三橋 富子, 田島 真理子, 水の硬度が緑茶浸出液に及ぼす影響, 日本調理科学会誌/49 巻 (2016) 3 号
さらにアクアリウムには「塩水浴」という言葉があるように、体調の悪い魚の水槽に塩を入れるということがやられていて、ナトリウムイオンが増えても多量すぎなければ特に悪い影響は無いと思われます。
では多量すぎるかという問題ですが、ゼオライト中のナトリウムイオンの割合というのを考えてみます。
ゼオライトの全体の酸化ナトリウムNa2Oの割合は例えば1.45%~12.49%です。((2):荻原 成騎, 天然ゼオライトの産状と成因, 資源地質/70 巻 (2020) 2 号, 表1から読み取る)
Na2O中のNa原子の重量%はナトリウムNaの原子量が23、酸素Oの原子量が16なので、Na2O中のナトリウム原子の量は46であり、Na2Oの分子量は46+16=62なので、ナトリウムの量は46÷62≒74%となります。
つまりゼオライト中のナトリウムイオンの量は最大限見積もっても1.45%~12.49%の74%である1.07%~9.24%程度とみなせます。中央値を取って5.16%とします。
すると例えば外掛けフィルターにちょっとネットに入れたゼオライトを入れるという想定で140g程度入れるとすると140×0.0516≒7.2g程度のナトリウムが最大では放出されます。
例えば30cmキューブ水槽の場合その水量を25Lとすると、塩水浴に必要な塩の量は0.5%なので25×0.005=0.125kg=125g程度の塩が必要で、塩の組成をすべてNaClと仮定すると、Naの原子量は23、Clの原子量が35.5なので、NaCl中のNaの割合は23÷(23+35.5)≒39%となり、125×0.39≒49g程度のナトリウムが必要です。
つまり30cmキューブ水槽で一回塩水浴するのにナトリウムが49g必要なので、ちょっとゼオライトを入れて7.2g程度のナトリウムが放出されても魚への影響はほぼないと考えられます。
例えば水槽で外掛けフィルターなどにちょっとゼオライトを入れたいなら以下のような商品があります。
カルシウム型では軟水化は難しいかもしれない
ゼオライトがカルシウム型でもその組成にはナトリウムが含まれていることがあります((2)の表1より)。
つまりカルシウム型でもナトリウムが陽イオン交換で交換される場合があります。
ただし、カルシウム型のメインの陽イオンはCa2+ですから、陽イオン交換が起きても放出される陽イオンは硬度の指標であるCa2+であり、硬度にあまり影響がないと考えられます。Mg2+などを交換しても結局硬度を上げるCa2+が放出されてしまうからです。
ただしナトリウムも含んでいるのでナトリウムイオンによる陽イオン交換も多少は行われると思われ、ナトリウムイオンと水中のCa2+やMg2+との交換で硬度は多少下がると思います。
ただしその作用はナトリウム型ゼオライトよりは緩やかでしょう。
ゼオライトでpHは下がるのか
よく言われるのは「水の硬度が上がるとpHが上がる。ゼオライトは硬度を下げる作用があるからpHが下がる」という主張です。
詳細は上の記事で解説していますが、石によってpHが上がる仕組みは、石による陽イオン交換です。石の中のCa2+やMg2+が陽イオン交換で水中のH+と交換され、その過程でH+の濃度が下がるのでpHが上がります。
つまり硬度が上がるのは陽イオン交換の残りかすを検出して陽イオン交換が起きたかどうかを検出しているだけなので、硬度が上がったからpHが上がるというよりは、pHが上がる結果、硬度が上がるという話となります。
結局硬度云々よりもその過程でH+が増えているのか減っているのかが重要でここを追わないといけません。
ゼオライトは確かに硬度を下げる作用があります。しかし、硬度が下がるという現象で起きている陽イオン交換で放出されるのはNa+やCa2+であり、H+も陽イオンなので交換され水中から減少します。つまりどちらかというとゼオライトはpHを上げる作用があります。
また「ゼオライトはpHを弱酸性に固定する」という主張もたまにありますが、これは酸性が弱酸性よりもさらに強まった強い酸性になったときに陽イオン交換によってH+が吸着され、H+が必要以上に増えないよう抑制する、つまり「pHが下がりすぎそうなときにそれを食い止めて弱酸性を保つ」という作用が「pHを弱酸性に保つ」という部分だけ切り取られ、「ゼオライトはpHを弱酸性にする」という主張につながっていると思われます。
実際文献(1)でもナトリウム型、カルシウム型双方でpHが下がるという現象は確認されておらず、すべてのパターンでpHは変化しないか上がるという結果となっています(文献(1)の図11より)。
つまりゼオライトではpHは下がりません。pHが下がる要因はたくさんあるので、ゼオライト以外の要因も検討する必要があるでしょう。
まとめ【ゼオライトとpHの関係はちょっと複雑】
今回はゼオライトとpHについて主にアクアリウムの観点から解説しました。
基本的にゼオライトはアルカリ寄りの物質です。
pHを変動させる作用が無いわけではないので、心配ならpHを頻繁に測って水換えの頻度などで調整するとよいでしょう。
以下アクア用のpHメーターです。
測定液のほうがちょっとお安い。45回測れます。
多少pHが上下してもよっぽどpHに敏感な魚でないならあまり気にしなくてよい場合が多いです