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今回は水槽のpHを変動させる色々な原因について解説していきます。
基本的には硝化でpHは下がっていく
水槽のpHは硝化と呼ばれる働きで徐々に下がっていきます。
簡単に言うとエサや水草の残骸などが色々なバクテリアの働きでアンモニウムイオンNH4+の形になり、以下のような反応式が硝化に関わるバクテリア(亜硝酸菌と硝酸菌)の働きで実行され、H+イオンが発生するのでpHが下がるという仕組みです。
亜硝酸菌の反応は
2NH4++3O2→2NO2–+4H++2H2O+化学エネルギー
硝酸菌の反応は
2NO2–+O2→2NO3–+化学エネルギー
亜硝酸菌の反応でH+が発生していますね。
石や貝のかけらが溶けるとpHが変動する
貝殻の成分である炭酸カルシウムなどはアルカリの物質なので水に溶けて酸性を中和する、つまり水質をアルカリ側に傾ける作用があります。貝殻は大磯砂やサンゴ砂に含まれているので、こうした低床を利用するときにpHが上がってしまうという問題が起きるときがあります。
こう書くと詳しくないのでもう少し詳しく述べます。
以下の文献(1)で石灰化生物(要するに貝類)の海水での反応式について述べられています。
CO2(g) ⇄ CO2(aq) (R1)
CO2(aq) + H2O ⇄ H2CO3(aq) (R2)
H2CO3(aq) ⇄ H++ HCO3- (aq) (R3)
HCO3- (aq) ⇄ H++ CO32- (aq) (R4)
Ca2+ (aq) + CO32- (aq) ⇄ CaCO3(s) (R5)
文献(1):藤田 紗江, 藤田 浩輝, 笹岡 聖也, 中野 幸夫, 海洋酸性化によって石灰化生物が行う炭酸カルシウムの形成が阻害されることを観察できる実験教材の開発と高等学校での授業実践による教材の評価, 科学教育研究/47 巻 (2023) 1 号.
ここで貝類のカルシウム成分は(R5)式の右辺であるCaCO3(s) です。
これらは平衡式なので水中に貝類の貝殻を入れると(R5)式の右辺が増えます。
すると平衡を保つために(R5)式の左辺が増えます。
すると(R4)式の右辺のCO32- (aq) が増えるので、平衡を保つために(R4)式の左辺が増えるんですが、このとき(R4)式の右辺でH+を使わないといけません。
貝殻を入れただけでは水中のH+は変化しないので、水中の元からあるH+を利用することになります。
つまりH+が使用されて減少します。H+の減少はpHを上げるので、ここでpHが上がると思われます。
光合成と呼吸
水草の光合成や魚や水草の呼吸によってもpHは変動します。
光合成
光合成は基本的に以下の反応式が実行される働きです。
6CO2+12H2O+光エネルギー→(C6H12O6)+6O2+6H2O
そして水中の二酸化炭素は以下の化学平衡を保っています。
(文献(2):河野 健, 海洋酸性化研究の動向, 科学技術動向 2010 年 2 月号.)
- CO2+H2O ↔ H2CO3 (1)
- H2CO3 ↔ H++HCO3- (2)
- HCO3- ↔ H++CO32- (3)
光合成で水中のCO2が減少すると(1)式の左辺が減少し、平衡を保つために(1)式の右辺が減少します。
すると(2)式の左辺が減少して、平衡を保つために(2)式の右辺が減少します。
ここでH+が減少するのでpHが上がります。
光合成は日中の光のある時間に行われ、これが呼吸のCO2増加よりも多くのCO2を吸収するので、日中水草の光合成が行われている間はpHが上がります。
呼吸
呼吸は以下の反応式で表せます。あくまで大きな枠組みでの話です。実際はもっと複雑な反応です。
水中では水草や魚や好気性バクテリアが呼吸を行っています。
C6H12O6+6O2+6H2O→6CO2+12H2O+エネルギー
するとCO2が増えるので上の(1)式から(3)式の反応で言えば、(1)式の左辺が増加して、平衡を保つために(1)式の右辺が増加。すると(2)式の左辺が増加して平衡を保つために(2)式の右辺が増加。するとH+が増加するのでpHが下がります。
日光やライトの当たる日中は光合成が支配的ですが、夜間に光がなくなると呼吸が支配的になります。
するとpHが下がっていくことになるわけです。
また水草水槽でCO2を過剰に添加してもCO2過多になってpHが下がるときがあります。
硝酸イオンの吸収でpHが上がるときがある
例えば水耕栽培(養液栽培)などのときにpHが上がるときがあります。
NO3 – (あるいは陰イオン)の吸収が優勢な場合,細胞電荷バランスを維持するために根からOH–ま たは HCO3 –を放出する結果,根圏pHは上昇し,NH4 + (あるいは陽イオン)の吸収が優勢な場合,同様に根からH+を放出して根圏pHは低下する.
文献(3):畑 直樹, 徐 海竜, 日長および施用窒素形態が植物工場環境におけるリーフレタスの生育ならびに培養液pH変化に及ぼす影響, 植物環境工学/32 巻 (2020) 3 号.
水耕栽培の養液に使う窒素源として硝酸イオンNO3 – を使うかアンモニウムイオンNH4 +を使うかというのは悩ましい問題で、たいていは硝酸イオン(硝酸態窒素)が使われるのですが、そのときに作物が硝酸イオンを吸収しすぎると養液pHが上がってしまうという問題があります。
上の効果によって水槽内の水草が硝酸イオンを盛んに吸収するとpHは上昇する可能性があります。
魚のエサは硝化作用で硝酸イオンになるわけで、それを水草が吸収するときにpHを上げるなら、pHは水草を入れておけば上がっていくのではないか、と考えたくなります。すると水換えの頻度を伸ばせるんじゃないかみたいな。
しかし現実はそうなりません。
これは我が家の金魚を飼育している鉢です。
ウィローモスで鉢の縁を覆っていたら、偶然何らかの観葉植物が根を張り成長しています。
この植物の養分吸収は完全に鉢の中の飼育水です。
つまり硝酸イオンを養分に成長しています。
この鉢のpHを測ったところ6.0でした。
そうです。アルカリにはなりません。
他の水槽よりpHの低下はゆっくりかもしれませんが、pHは下がるので水換えは必要です。
よくよく考えてみたら、硝化でpHが下がるわけで、その時発生する硝酸イオン以上の養分吸収は無いわけです。
つまりエサのpHの寄与よりも多くのpHの上昇は見込めないと思います。
あえて言えばエサの投入をやめるか、エサの窒素供給以上の水草を投入してエサ以上の硝酸イオン吸収を行えばpHは上がるかもしれませんが、それでもエサの窒素源を消費しつくすまでしか硝酸イオンの吸収はできないので、結局エサの硝化でpHが下がった以上のpHの上昇は見込めないんじゃないかと思います。
水換え不要(あくまでpHのみに着目した場合)というのは簡単ではないですね。というより水換えは必要と割り切ってお世話を頑張るほうがいいでしょう。掃除しない部屋で5年過ごしたら体調を崩すみたいな話になりそうですし。
まとめ【とりあえず水槽のpHは測っておいた方がいい】
今回は水槽のpHを変動させる色々な原因について解説しました。
色々な原因でpHは変動するのでこまめにpHを測っておいた方がいいでしょう。
以下におすすめのpHメーターをご紹介します。アクアメーカーの「ニチドウ」から出ているpHメーターです。アクアメーカーのほうが用途を理解してアクア用のメーターを作っているので安心感が高いです。
ちょっと高いよ、というときは農業用の測定液が良いでしょう。色の変化が見やすくておすすめです。
pH変動の原因を理解して魚の環境を改善しましょう