コラム

水草には照明が点いていない時間が必要なのか

コラム

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はじめに

今回の内容を動画にまとめました。よろしければご覧ください。

植物に人工の照明を用いて夜も光を照射するのはよくない、みたいな話を聞いたことはありませんか?

植物も眠るとか、寝ている間に人間の睡眠みたいに何かをしている、と考えたくなりますよね。

水草も植物ということで、今回は夜間の消灯が水草に及ぼす影響に関して調べて考えたことを述べたいと思います。

マメ科は眠る

マメ科の植物は眠るような動きをします。

もちろん人間の睡眠と同一ではありませんが、ダイズに限らずマメ科植物のほとんどは、夜は葉を閉じ、まるで眠っているように見えます。

植物が眠るような動きをすることを「就眠運動」と言い、ダイズやオジギソウだけでなく、ニセアカシア、アメリカネムノキのような大きな木まで、マメ科の植物のほとんどに見られます。

(1)参考:上田実, 植物の眠りを分子で解く, まなびのめ – 学術の世界と市民をつなぐ情報誌 [Web版], 2017-07-05, 閲覧日:2023-03-01.

植物が本当に眠っているかはよくわからないです。人間のように脳があるとは考えにくいので(それに準ずる判断器官はあるかもしれませんが)人間のように記憶の整理をするために眠っているわけではないでしょう。

しかしながら、マメ科の植物の就眠運動というのは、なんのメリットもなく実行しているとは思えません。判明したのは「植物は夜間になんらかの変化をする場合がある」ということです。きっとこの就眠運動にも、植物が生存しやすくなるなにかがあるんでしょうね。

まあ水槽の水草には就眠運動は見られないので、マメ科の植物の特徴が水草に当てはまるかどうかは微妙です。しかし水草は自然環境で日光を光源に光合成をして、夜間は日光が当たらず暗い環境にあるので、何らかの変化が目に見えずとも起こっているという可能性は否定できません。

  • 眠っているような反応をするマメ科植物の就眠運動というものがある
  • 水草にも夜間の反応がある可能性がある

イチゴの面白い話

イチゴには季節の日照時間を感じ取る力があるようです。

ハウスでの栽培は、一年中イチゴを育てることができますが、日の短い冬に育てると、植物が大きくなる前に、花芽がついて、小さな実が少しだけ取れるような状態になります。農家の人がハウスを夜も明るくするのは、花芽ができにくい状態を人工的に作って、植物体を大きくして、大きな立派なイチゴの実を沢山つけるための土台を作っているのです。当然、植物体が充分大きくなったら、花芽をつけるために、しばらくの間、短日条件や低温条件にして(秋や冬に近い状態にする)、その後、また、日を長くして(夜に光をつけて、春に近い状態する)、開花させ、実をつけるように工夫しているはずです。

(2)参考:一般社団法人日本植物生理学会, 植物って夜も光を当てたほうがいいの?, みんなのひろば, 2007-08-24, 閲覧日:2023-03-01.

このことからわかるのは、植物には日光の照射時間に関するリズムみたいなものがあって、春の日の長さではこういう成長をするとか、秋の日の長さではこういう成長をするっていうのがインプットされている。

この作用から、夜に無理やり光を照射したりすることでリズムを狂わせると、春なのに夏のモードが働いて、準備不足で中途半端な成長になる、みたいなことはあるかもしれないですね。

春は植物の成長の季節です。春を感じ取ったら、たくさん自身を成長させようとするでしょうし、夏は高温に耐えながらたくさんの日光をさばかなければいけない。秋には実をつける準備をしないといけない。

そのトリガーの一つが日照時間にあるなら、そのときの植物のリズムに合わない日照時間を設定してしまうと、最大効率を追求するためのモードの切り替えが不完全になって、生育にマイナスに作用する。

植物は環境に最大効率で適応しようとするはずですから、それが阻害されると思ったように成長しないということはありそうです。

まあ水草にすべてこのリズムがあるかどうかは微妙です。熱帯の水草は一年中高温で日照時間も一定の地域に生息しているものもあります。そこでは季節に応じたリズムは存在しないでしょう。せいぜい一日の昼と夜の変化ぐらいのはずです。

ただしここでわかったのは

植物には日照時間に応じたモードの切り替えが存在するものもいる

ということです。

  • イチゴは季節の日照時間を感じ取る能力がある
  • 水草にも日照時間を感じ取る能力があるかも

概日リズム

植物には概日リズムというものが存在します。

約24時間周期の内因性の生体リズムを概日リズムといい,これを生み出す生体機構を概日時計と呼ぶ.

ただし,環境刺激が複雑な波形の場合,深刻な事態を生み出す.概日リズムが弱まれば弱まるほど,外力に対して過敏に応答してしまうことになるので,植物は本来の自律的な概日リズムを刻めなくなる.その結果,様々な生理不調が生じる.そして,生理不調がさらに概日リズムを弱める.概日リズムの不調は悪循環を生み出す可能性がある.

(3)参考:福田 弘和, 植物工場における概日時計の科学技術, 総説・招待論文, 植物環境工学 30 巻 (2018) 1 号 p. 20-27.

上の文献のように、植物には一日のリズムがあって、環境が変わるとリズムが狂って生理不調が生じます。水草も植物なので概日リズムがあるとみてよいでしょう。

植物によってリズムは微妙に違うでしょうけど、一日の日照時間はリズムを決める要素の一つであることは想像に難くありません。これが本来のリズムからかけ離れると、当然不調になります。

もう少し詳しく調べてみました。するとどうやら概日時計というのは日照に影響されないその生物の時計的な機能のことなので、日照は概日時計そのものには影響を与えないようです。

生物を24時間の明暗周期から連続明あるいは暗条件に移し外部からの光情報をカットしても, ほぼ24時間の周期性をもったさまざまな現象が見られる。

多くの場合, 暗から明(または明から暗)への移行が刺激となり, それに合わせて概日時計がリセットされる.

三村徹郎 鶴見誠二,基礎生物学テキストシリーズ7 植物生理学,(株)化学同人,2009.

概日時計そのものには光は影響しませんが、そのリセットには光の何らかの変化が関係しています。

つまりやはり照明を24時間照射し続けるような環境にいると、概日時計がリセットできないので、概日リズムが崩れ、生理不調になるということは言えますね。

一日中照明を点け続けるのはやめたほうがよさそうです。

逆を言えばその水草に適切な照明の照射時間があるということですから、これを見つければ最大効率で水草の育成ができたり、枯らさずに生育できる道もあるのかもしれません。

もしかしたら、照明の照射する光に一日のうちで変化をつければ、より水草の成長によい効果もあるかもしれませんね。

朝と夕方は1時間くらい弱い光にするとか。

あるいは水草の原産地の日照条件を調べて、それに合わせるような方法も有効かもしれません。

まあ実験したわけではないのでこれ以上踏み込まないことにします。

ちなみに照明の明るさの強弱をつけなくても、我が家の水草はちゃんと育っているので、”最適”な光の条件から多少外れても大丈夫ですよ。ある一線を超えなければ大丈夫といったところでしょうね。

  • 植物には生体リズムである「概日リズム」が存在する
  • 日照時間がおかしくなって概日リズムが乱れると生理不調が起きる
  • 完璧に最適な条件から多少外れても植物は生き抜く

生体は水草よりもっと概日リズムの影響を受けます

私の経験から言うと、夜間照明をつけっぱなしにするリスクは、水草より生体のほうに多くあります。

私は昔夜の帰宅時間が不安定なときがあり、家に夜中の1時に帰ってから水槽を消灯するなんてことがありました。何日かそんな日が続くと生体の死亡率が上がりました。

魚も不眠とか生体リズムが乱れるとかすると病気になって死んでしまいます。水草を育てたい一心で夜間も照明をつけっぱなしにすると魚に悪影響があることは間違いないので、その意味でも特に生体が入った水槽で夜間に照明をつけっぱなしにするのはやめましょう。

帰宅する時間が不安定な方はこういうタイマー付きの照明にするといいかもしれません。

まとめ

今回は水草に夜の消灯は必要なのか、というところからスタートして、マメ科植物の就眠運動、日照時間に季節的に適応するイチゴの話から、最終的に概日リズムの話をしました。

結論としては夜の照明は概日リズムを乱すのでよくない、ということになります。

生体がいる水槽では特に注意です。生体と水草両方の健康を守るために、決まった時間にちゃんと消灯しましょう。