水槽トラブル・飼育方法継続するための技法

掃除しなくていい水槽ってある?【難易度MAXなので掃除して!】

水槽トラブル・飼育方法

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今回は水槽の掃除をしない・したくないという話題について解説します。

まず心理学的に確認しよう【それホメオスタシスでは?】

心理的ホメオスタシスとは

いきなり何で心理学なんだ、という声が聞こえてきそうですが、ここは結構重要なので水槽掃除がなぜやりたくないのかという心理から解説していきます。

心理的ホメオスタシスとは、

現在の習慣や環境など「現状を維持したい」という心理をいいます。

ふかつ泌尿器科皮ふ科クリニック, あなたの変化を拒む心理的ホメオスタシスについて

ダイエットしていると、痩せてきたなという段階でいきなりドカ食いを始めるとか、もうどうしようもないくらい部屋が汚れるまで掃除しないとか、要するに「頑張ったから心理的なバランスを取ろう、できれば快適な現状を維持しよう、イーブンに戻そう」という心理的な作用です。

水槽掃除というのは時間がかかるわりに、得られるものは「汚れる前の水槽」です。

つまり手間をかけるのに前と同じものしか得られない。そこに進歩や新しい感動はありません。

そうなると「掃除しない現状」の方にメリットを感じていつまでも掃除しない、掃除したくないという心理になっていきます。

掃除すると現状から変化が起きます。汚れていたものがきれいになるという物理的な変化と、精神的・肉体的エネルギーを消費するという変化です。

そこで変化を嫌う脳の心理的ホメオスタシス作用で「そんな変化ダメだよ~掃除するなよ~」という指令が脳から大量に発せられます。

掃除したくないというのは当たり前なのです。

心理的ホメオスタシスは成果を得ようとすると発生する

掃除してきれいな水槽を手に入れるというのはある意味「成果」なわけです。

成果というのは成果が無い状態から新たに発生する報酬なので、「変化」です。

つまり成果を得ようとすると心理的ホメオスタシスが働いて成果を得ないように脳が指令を出します。

特に掃除とかダイエットとか「辛いことを我慢して得る」成果の場合顕著です。

辛いことをするという変化がない快適な現状を維持しようとするということです。

掃除しようとして嫌な気分になるのは自然なことですが、「ああ、自分が成果を得ようとするのを脳が邪魔しているんだな」と冷静に客観的に考えることができれば、「今回の成果を得るのは悪いことではない」という考えもできるでしょう。

いったん心理的ホメオスタシスを疑って自分を見てください。多少気分が和らぎます。

水槽掃除をしないとどうなる?

水槽掃除をしないと以下のような問題が起きます。

  • 硝酸塩の過剰蓄積で魚が死ぬ
  • pHが下がりすぎて魚が死ぬ
  • コケが蔓延して水槽を鑑賞できなくなる

水換えが不要にならない理由【脱窒は難しい】

水槽掃除と言えば「水換え」です。

水槽ガラス面のコケを落として、汚れを吸い出して、飼育水を1/3程度新しい水に換える週一回のお手入れです。

水換えをする理由として大切な二つのことは「硝酸塩の除去」と「pHの調整」です。

水槽の飼育水は魚のエサや排泄物、枯れた水草などが分解されて毒性の高いアンモニウムイオンになります。

それが硝化と呼ばれる作用で毒性の低い硝酸イオンになります。

この「アンモニウムイオン」→「硝酸イオン」という作用を行っているのが「生物ろ過」です。

硝酸イオンは毒性が低いと言ってもゼロではないので、過剰蓄積は毒となります。そして厄介なことに水槽という閉じた空間では硝酸イオンが蓄積する一方となるのです。

自然界では酸素がない池の底の土の中などで、酸素を必要としない「嫌気性バクテリア」が「脱窒」という反応を実行して硝酸イオンを気体の窒素に還元して空気中に放出するので池の水では硝酸塩過剰にならずに魚がずっと生きています。

2NO3 +5H2 → N2 + 4H2O + 2OH

(参考1:明賀 春樹, 角田 ふで子, 楊 敏, 三宅 酉作, 眞柄 泰基, 水素酸化脱窒細菌の比脱窒速度に及ぼす諸因子の検討, 水環境学会誌/17 巻 (1994) 10 号)

しかし水槽内で嫌気性バクテリアを働かせようとすると酸素の無い空間を作る必要があり、そうすると硫酸塩還元細菌も一緒に働いてしまう状況となり、以下の反応式から硫化水素が発生します。(参考2:滋賀県, 硫化水素の発生原因について

有機物 + SO42- + 2H+ → nCO2 + mHO + H

この硫化水素HSですが、生体には有害です。

硫化水素は,還元型チトクロームa3の酸化を遮断して酸化的燐酸化を阻害することにより,低酸素症と同様の症状を引き起こすことが知られている。

参考3:丸茂恵右, 横田瑞郎, 青潮と硫化水素の生物影響に関する文献調査, 海生研研報,第15号,23-40,2012

硫黄Sをゼロにすれば害はなさそうですが、エサの主成分である魚粉には硫黄が含まれています。以下の参考4では海水硫黄が魚に食物連鎖で移動するとあります。

海洋微生物や藻類によってまず吸収同化される海水硫黄は,小型魚から大型魚への食物連鎖により移動するが,その過程での同位体分別は小さく,積算値でも高々4~5%ていどであるらしい。

参考4:桑名 敦子, 黒田 留奈, 丹野 泉美, 佐々木 昭, 食品類の硫黄同位体組成, 茨城大学教育学部紀要(自然科学)43号(1994)39-46

つまり水換え無しの水槽を作ろうとすると基本的に脱窒を行う必要があるのですが、硫化水素が発生してしまい、その手法が使えません。

エサを与えているとpHが下がる【硝化も止まる】

エサを与えていると硝化によってpHが下がります。

亜硝酸菌の反応は

2NH4++3O2→2NO2+4H++2H2O+化学エネルギー

硝酸菌の反応は

2NO2+O2→2NO3+化学エネルギー

亜硝酸菌がアンモニウムイオンを分解する過程でH+が発生してpHが下がります。

ただ硝酸菌や亜硝酸菌はpHが低すぎると活動を止めます。

だいたいpHが4くらいで限界が来るようです。

こうなるとエサを投入してもpHは下がりませんが、エサの分解物であるアンモニウムイオンは発生し続けます。

するとアンモニウムイオンを硝化で分解できないので毒性の高いアンモニウムイオンが水槽に蓄積し、魚が死んでしまいます。

これを薄めてpHを戻すために中性付近の水道水で定期的に水換えして薄める必要があるのです。

水草を入れるとかアクアポニックスすればいいって聞くけど?

水草は水中の硝酸イオンを吸収してくれるので水草を入れるとかアクアポニックス用の作物を水槽の上で育てるとかしておいて、大きく育ってから水槽の外に除去すれば硝酸塩の蓄積が防げるのではないかと考えるかもしれません。

確かに水草や作物は硝酸イオンを吸収するのですが、pHの低下を防げないのです。栄養として水中にエサを与えると硝化が起きてpHはエサを与え続ける限り低下し続けます。

ただし実のところ水草が硝酸イオンを吸収するとpHは上がる可能性があります。でも結局緩やかにpHは下がっていきます。

NO3 (あるいは陰イオン)の吸収が優勢な場合,細胞電荷バランスを維持するために根からOHま たは HCO3 を放出する結果,根圏pHは上昇し,NH4 + (あるいは陽イオン)の吸収が優勢な場合,同様に根からH+を放出して根圏pHは低下する.

参考5:畑 直樹, 徐 海竜, 日長および施用窒素形態が植物工場環境におけるリーフレタスの生育ならびに培養液pH変化に及ぼす影響, 植物環境工学/32 巻 (2020) 3 号.

上の記事でも書いたのですが、結局硝酸イオンを吸収するような植物を水槽に導入してもpHはアルカリ性にはなりません。

酸性のどこかに落ち着きますし、次第にpHが低下していきます。硝化のpH低下作用というのは思っている以上に強いんです。

光合成を活発にすればCO2の化学平衡式からpHが上がるという話もあるのですが、それを踏まえても水槽環境をアルカリ性に傾けるというのは容易ではないのです。次第にpHは低下していきます。

またじゃあ石やサンゴを導入してpHを上げるという手法も思いつくのですが、これって有限の資源なので定期的に新しい石とかサンゴを投入し続けないといけないんですよね。水換えしなくて済むけどたまに石とサンゴの入れ替えをしないといけないですし、これを狙ったpHに維持する量投入するための適切な投入量を見つけるのが相当難しいです。

実際にやってみる場合は手さぐりの面が強いので自己責任で行ってください。

掃除しないとコケが蔓延する

コケは水中の硝酸イオンやリン酸イオンなどを吸収して繁殖します。

掃除しないとガラス面はコケまみれになり、ラン藻や黒髭コケが繁殖していきます。

つまり観賞魚なのにガラス面や機器や流木などのアイテムにコケがはびこり観賞できなくなるのです。

水草をたくさん植えれば硝酸イオン(つまり窒素)やリン酸イオンを吸収してくれるからいいじゃないかと考えるかもしれませんが、水草の窒素吸収量とリン酸の吸収量というのは1対1ではなく、窒素を多めに吸収するという報告もあります。

吸収されたTINおよびPO4-Pの比は、生育時期によって変化したが、3.8~6.8の間にあることが明らかになった。

参考6:小浜暁子、江成敬次郎、玉置智、中山正与, 「水生植物(マコモ)による窒素・リン吸収量の評価」, 日本水処理生物学会誌 第39巻 第2号 59-66 (2003).

ちなみにエサの主成分である魚粉の窒素とリンの含有量は一例として以下のようになっており、窒素とリン酸の割合に大きな開きがありません。

外来魚を減圧して加熱攪拌し乾燥・粉砕した魚粕肥料(以下、「外来魚粕肥料」という)の組成は、窒素 11%、リン酸7%、加里 1.7%であり、フェザーミールに近い窒素含有量を有し、かつリン酸含有率も高く、有機質肥料としての利用価値が高い(表1)。

滋賀県, 外来魚粕の窒素無機化特性と有機質肥料としての有効利用

すると低窒素高リン酸状態になるのですが、そうなるとラン藻が繁殖しやすい状況が整ってしまうのです。

これらの結果から,溶存態リンが高濃度で存在する窒素制限下ではMicrocystis属はその他の藻類を排他し優占するが,溶存態リン濃度が10μg・L-1以下の場合では競争関係にあるその他の藻類を排他出来ないことが示された。

参考7:本間隆満 朴虎東, 「諏訪湖におけるMicrocystis種組成および藍藻毒素microcystin濃度に及ぼす硝酸態窒素・リン酸態リン濃度の影響」, 水環境学会誌 2005 年 28 巻 6 号 p. 373-378.

水草にすべての養分吸収を頼るというのは問題になりそうな感じです。

これを低pHでラン藻の繁殖を抑えようという手法もあるにはあります。

このようにラン藻は,幅広い生育環境に適応しているが,なぜか酸性環境は苦手で,pH 4以下の酸性環境から単離される藻類は,ほとんど真核藻類なのである.

参8:仮屋園 遼, 「ラン藻は酸が嫌い」, 生物工学会誌 第99巻 第6号 302.2021.

硝化を放っておいて低pHにすればラン藻は抑え込めそうな気もしますが、pH4以下だと上で述べたように硝化細菌も活動できないのでアンモニウムイオンが蓄積してうまくいかないように思います。つまり低pHだと魚が生息できないのです。

脱窒不要の便利な水質調整剤もある

裏技的にテトラから販売されている「テトラ 水リサイクル」という製品を使えば嫌気性バクテリアによる脱窒なしで硝酸塩濃度を上げずに低濃度で維持できます。

参考9:テトラ, テトラ 水リサイクル

リン酸も抑制する・pHも安定するとあるので、ラン藻も抑えられる可能性があり、私は試していませんが便利かもしれません。

結論!掃除(水換え)はしましょう!

つらつらと書いてきましたが結局掃除しないというのは相当難易度が高く私は掃除しない水槽を想像できません。

水換えはちゃんとやりましょう。

ここからは水槽掃除をするという気持ちになってきた方向けに掃除の仕方をご紹介します。

なおだいたいの掃除方法は以下の記事にまとまっています。

しかしながらベアタンクのメダカ向けの記事なので通常の砂利などの低床を敷いたフィルターがある普通の水槽を対象にした場合を書いていきます。

水換えの役割

水換えの役割は以下となります。

  • 硝酸塩の除去
  • pHの調整
  • コケや汚れの物理的な除去

硝酸塩豊富なpHの低くなった飼育水を硝酸塩のないpHの高い(中性付近)新しい水と入れ替えることで硝酸塩(硝酸イオン)の除去とpHの調整を行います。

また飼育水をバケツに汲む前にコケ落としをしたコケの残骸などを水中に舞わせておけばそれをバケツに汲みだすことでそうした汚れを水槽の外に排出できます。

週一回1/3程度の水を入れ替えましょう。あまりにも頻繁にやるとろ過バクテリアが繁殖する時間がなくろ過が不安定になるのである程度の時間間隔が必要です。それが経験的に週一回ということです。

水道水中の塩素の中和にカルキ抜きを忘れずに。

注意点としては砂利の中の汚れも定期的に吸い出したほうがよいということです。

この汚れはエサや糞の最終代謝物である「デトリタス」と考えられます。

これには栄養が豊富に含まれています。

蓄積するとバクテリアやメイオベントスやデトリタス食者によって栄養分(窒素とリン)が取り込まれていきます。(参考10:国立環境研究所, 干潟の生態系- その機能評価と類型化 環境儀 NO.15))

  • デトリタス食者(タニシなどの貝類)
  • メイオベントス(そこそこ細かい(少なくても1mmの網はすり抜ける程度の)小型微生物)
  • バクテリア

これらは生物なので死亡すると環境中に放出されて分解されアンモニウムイオン→硝酸イオンと循環すると思われます。

つまり低床に溜まったデトリタスを放置し続けると水中の硝酸イオンが増えていき、どこかの段階で限界を迎えていきなり水槽の崩壊(魚が大量に突然死とかコケの蔓延)を引き起こす可能性があります。

上の写真では砂の下半分が汚れで詰まっています。これは良くないです。

定期的に水槽の砂利の汚れは吸い出しましょう。

アクア用品として水換え用のポンプ付きホースが売られているのでたまに水槽砂利をゴソゴソさせて汚れを吸い出すようにしてください。

なおこれが大変なら低床を薄く敷くという方法もあります。以下の写真は薄く砂を敷いた水槽です。

厚さ5mm程度なら低床にデトリタスが蓄積する場所が限られるのでホースでゴソゴソする必要がほとんどなくなります。

汚れが溜まってきたら大きめのスポイトで気が付いたときに吸い出すとよいでしょう。

この場合汚れはフィルターに溜まっていくのでフィルター掃除も定期的に行いましょう。

ガラス面のコケ

ガラス面のコケは使い古した歯ブラシかスクレイパーでこすり落とします。落として水中に舞ったコケを水換えのときにバケツに汲んで除去します。プラスチック製のスクレイパーならガラス面をエッジで削る心配が無いのでおすすめです。

黒髭コケ

黒髭コケは難しいのですが、以下の記事に除去方法が書いてあります。

やり方としては「酢に浸す」「サイアミーズ専用水槽を立ち上げて用具を投入」などが有効です。

以下サイアミーズ専用水槽の作り方です。

まずサイアミーズがいないと始まりません。

水槽は安くて設置しやすい30cmキューブ水槽がいいんじゃないでしょうか。

サイアミーズ用にヒーターを入れます。

低床は大磯砂が安くておすすめです。薄めに敷けばいいのでたいした量は必要ありません。

水草を入れるとなんとなくそれらしく見えます。育成難易度が低い簡単に育てられるミクロソリウムがいいんじゃないでしょうか。根を張らないので大磯砂の上にポツンと置いておくだけで成長します。

ライトも消費電力が低いものがおすすめ。それなりに明るければいいです。以下のコトブキのSS3042なら消費電力が5Wとかなり抑えられています。

カルキ抜きも忘れずに。

エサはあまり高級でなくてもいいです。

これでなんとなくサイアミーズを飼育しておいて他の水槽で黒髭コケがヒーターや流木や水草に発生したときにそれらごとこの水槽に移動させてサイアミーズに食べてもらいます。

なお黒髭コケを歯ブラシで落とせそうならよくこすって水換えのときの排水に混ぜて除去しても良いです。

ラン藻

ラン藻対策は以下のようになります。

  • 水換えして栄養になるリン酸を減らす
  • 遮光:光合成をさせない
  • 物理的に歯ブラシなどで藍藻を浮かせてから水換え
  • どうしようもないほど蔓延ったら魚をバケツに退避させて用具を塩素系漂白剤で殺菌。後に新水に交換してカルキ抜きを入れて塩素を抜いてさらに水全部を水換え。それから生体を戻す(結果は自己責任になります)

糸状・トロトロ状のコケ

トロトロしたコケは以下の記事に書きました。

簡単に言うと魚用ネットですくうということです。

また糸状のコケは割りばしや歯ブラシに巻き付けてからめとって水槽の外に除去します。

まとめ【掃除しない水槽は難易度MAXなので掃除しましょう】

今回は掃除しない水槽は作れるのかという話題中心に、そもそも掃除したくないという心理の話、それは乗り越えられるという話、掃除しない水槽の難しさの話、実際に掃除する方法の話などをしました。

掃除しない水槽は難しすぎるので掃除しましょう。

掃除しない水槽にかける労力を考えると水換えする労力のほうが小さいですよ