水槽トラブル・飼育方法

餌をあげていれば無限にpHは下がる?そんなことはないです

水槽トラブル・飼育方法

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はじめに

今回の内容を動画にしました。よろしければそちらもどうぞ。

水槽のpHは餌などが硝化という過程を経て分解され、自然に低下していきます。

>硝酸イオンが増えるとpHが下がる化学的理由〜アンモニウムイオンの分解や酸性雨との比較

ところでこのpHの低下は水換えせずに餌だけ与えていれば永遠と続いていくのでしょうか?

普通に考えて、硝化で活躍する亜硝酸菌も硝酸菌も生物なので、極端な低pHでは生存できず、どこかで限界がきそうではあります。

今回はその点を調査してまとめました。

結論としては

限界はある

ただし、限界が訪れるまでpHを下げると危険

となります。

硝化をおさらい

まず硝化で起きる化学反応をおさらいします。

亜硝酸菌の反応は

2NH4++3O2→2NO2+4H++2H2O+化学エネルギー

硝酸菌の反応は

2NO2+O2→2NO3+化学エネルギー

亜硝酸菌が働けばH+が放出されpHが下がります。

土壌中のアンモニウムイオンと硝酸イオンとpHの関係

次の文献(1)を引用します。

一般にpHの高い土壌ほど両種の硝化細菌数がともに多かった。pH4.3より低い土壌からはアンモニア酸化菌は検出されなかったのに対し, 亜硝酸酸化菌は2試料で相当数存在することが認められた。pH(KCI)の測定例は少ないが, 4.0以上のpHを示す土壌では硝化細菌の存在が認められるようである。

(1)参考:吉田重明 三宅大浄 仁王以智夫, 「森林土壌中の窒素の動態(Ⅰ) 森林表層土における硝化細菌の分布と硝化活性」,THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY (1979) Volume 61 Issue 1 Pages 21-25.

この文献より、pHが下がるにつれて硝化細菌は減ることがわかります。

つまり硝化はpHが下がるにつれて不活性化していき、だいたいpH4くらいで限界が来るようです。

土壌中のデータですが、水中でも硝化細菌の役割は変わらないので、アクアリウムでも参考にします。

水槽で行った硝化とpHの実験

次の文献(2)のデータを引用します。

第1表  飼育槽水の無機態窒素含量(ppm)とpH値

水取り替え後の飼育日数, NH4-N, NO2-N, NO3-N, pH値

0*, 0.35, こん跡, 0.75, 7.27

(8月21日)9, 0, 〃, 18, 6.08

(8月31日)19, 0, ほとんど発色せず, 41, 4.77

(9月11日)30, 0.2, 〃, 58, 4.25

9月21日 40, 0.35, 〃, 76, 3.90

夏の盛りの時期に,少し多めに給餌したためだったか,第4回の採取日の翌日夕方までに,元気の衰えたタナゴの大部分が死亡したので,9月23日に水を交換した。

(2)参考:永井恭三, 「循環濾過式養魚淡水槽中の硝化菌の活性について」, 茨城大学農学部学術報告(26): 109-115,(1978).

この文献によると

淡水魚水槽の飼育水を水換えせずに、給餌だけ行い続けると、約40日後にpHは約7から3.9にまで低下する

その日の近辺でタナゴがほとんど死亡している

ということがわかります。

データから考えられること

文献(1)から硝化細菌の限界はだいたいpH=4です。

文献(2)からタナゴの限界もだいたいpH=4です。

硝化細菌も生物ですから、このくらいのpHで他の生物も限界が来るのでしょう。

pH=4でアンモニア酸化菌、すなわち亜硝酸菌が検出されなくなるので、放っておいてもこれ以上pHは下がりにくいと考えられます。

亜硝酸菌が働かなければpHは下がらないのでそのように考えられます。

>硝酸イオンが増えるとpHが下がる化学的理由〜アンモニウムイオンの分解や酸性雨との比較

水槽の水換えを行わないと約40日でpH=3.9まで下がるというのも重要です。

つまり水換えを一月半行わないと、生物にとって限界となるようなpHになるということです。

水換えの重要性がわかります。

水槽実験30日後からアンモニウムイオンが分解されきれていない様子が見て取れます。

40日後でさらにアンモニウムイオンが増加しているので、硝化細菌、特に亜硝酸菌が低pHで不活性化してアンモニウムイオンが分解され切らずに蓄積されているのでしょう。

pHの低下とアンモニア

アンモニウムイオンが増えれば電離平衡からアンモニアの量が増えます。

>バクテリアをめぐる話〜ろ材の基本的な考え方+アンモニアの計算

上の記事でやった計算式を再掲します。

NH3の割合(%)=100÷(1+10pKa-pH)

アンモニアは毒性が強いのでアンモニアはどのくらいの量か計算してみます。

この計算からアンモニウムイオンが残り始めたpH4.25とpH3.9のときのアンモニアの割合を計算してみます。(pKa=9.25を使用)

pH=4.25のとき

NH3の割合(%)=0.001%

pH=3.9のとき

NH3の割合(%)=0.00045%

ここでNH3:NH4=a:b

とすると、

NH3=(a/b)NH4

なので、

pH=4.25のとき

NH3=(0.001/99.999)×0.2=0.000002[ppm]

pH=3.9のとき

NH3=(0.00045/99.99955)×0.35=0.00000158[ppm]

魚の致死量はどのくらいかわかりませんが、アンモニアの量は非常に少ないです。

NH4そのものにも毒性の寄与があるとの研究もあるので、タナゴの死亡はおそらくアンモニウムイオンNH4の影響ではないかと思われます。

アンモニウムイオンの毒性に関しては次の記事で調査しました。

>バクテリアをめぐる話〜ろ材の基本的な考え方+アンモニアの計算

もちろん大量に蓄積された硝酸イオンの影響もあるかもしれません。

極端な低pHも作用していそうです。

まとめ

今回は水槽のpHの低下は水換えせずに餌だけ与えていれば永遠と続いていくのかという疑問に関して調べました。

結論としては

永遠には続かず、pH=4くらいが限界

pH=4付近だとアンモニウムイオンが分解されきれず危険

ということになりました。

ところで低pHが藍藻対策になる、という可能性を以前述べました。

しかしやりすぎるとpHが低くなりすぎるため生体に害となります。

pHが5を切ったら危険そうですね。

これは次の文献(3)でもそう言われています。

彼らのdataから要約して一般に水素イオン濃度による魚の致死限界はpH5.0以下といわれ,もしこれ以上のpH値で魚が斃死する場合は水素イオン濃度による毒性よりもむしろ他の因子に原因されるものと考えてよい。

(3)参考:小田 国雄, 宇野 源太, 河川汚濁物質の魚類に及ぼす影響, 生活衛生/11 巻 (1967) 4 号, p. 164-176.

水換えをちゃんとやりましょう。

たまにpHを測ってみるのも大切です。