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はじめに
今回の内容を動画にしました。よろしければそちらもご覧ください。
今回はアクアリウムの頻出課題である
「黒ひげゴケ」
と
「藍藻」
に関するお話です。
彼らはどういう状況で発生するのか、結局どうすればいいのか。
多くのアクアリストがその対策に日々頭を悩ませています。
この記事では黒ひげゴケと藍藻について調べた結果をまとめて、対策としてどうすればいいのかということを私個人の視点で述べました。
結局
「リン酸」
と
「硝酸」
をどうするか。
ここに落ち着きました。
それでは始めていきます。
黒ひげゴケ

黒ひげゴケは正式には
「Audouinella sp.」
つまりAudouinella属の一種という扱いです。
これはオージュイネラ属と読み
「紅藻」
の仲間です。
少し調べてみると、次の文献(1)に紅藻の仲間に関する平均湿重量と窒素とリン酸の間には正の相関があることが示されています。
月別のカギイバラノリ平均湿重量と水温,硝酸態窒素濃度およびリン酸態リン濃度の間の相関係数を算出した結果,平均湿重量は水温との間に負の相関が認められ (r=-0.48,P<0.05),逆に,硝酸態窒素濃度 (r=0.54,P< 0.05) とリン酸態リン濃度 (r=0.59,P< 0.05) との間に正の相関が認められた。
(1)参考:田中優平,高瀬智洋,駒澤一朗, 「八丈島沿岸におけるカギイバラノリHypnea japonica(スギノリ日,紅藻)の季節的消長と成熟」,水産増殖 (Aquaculture Sci.) 59 (4), 593 -598 (2011).
黒ひげゴケを培養できればもっと説得力がありますが、それは難しいので今回は分類上仲間であるという点から類推するにとどめます。
つまり同じ紅藻である黒ひげゴケも、窒素やリンが増加した環境では増殖しやすいと考えられます。
よく黒ひげゴケはリン酸の蓄積で発生するとありますが、リン酸だけでなく、硝酸態窒素が多くても発生するようです。
リン酸だけ減らしても窒素が多ければ発生するのかもしれませんね。
リン酸が増えると、窒素が多い環境をさらにブーストして、一気に広がるのかもしれません。
アクアリウムでは硝酸態窒素とリン酸態リンをいかにして減らすかが重要ですね。
黒ひげゴケとフードとカリウム
またカリウムがなくても黒ひげゴケは増殖するような気もします。
実際水槽に入ってくる栄養はほとんど魚用フードが供給源です。
魚用フードの原料である魚粉の栄養素は次のようになっています。
魚粉(魚粉/魚粕/フィッシュミール) N:P:K(窒素/リン/カリ) 5〜9:5〜15:0
参考:HORTI, 「魚粉や骨粉、油かすの肥料効果まとめ!使い方や注意点は?」, 閲覧日:2023-02-02.
カリウムがほとんどないです。
この環境で黒ひげゴケは増殖するので
「黒ひげゴケにはカリウムが不要なのでは?」
と考えたくなりますが、黒ひげゴケも光合成をします。
そして光合成にはカリウムがよく働きます。
酵素の活性化ですが、60種類以上の酵素がカリウムによって活性化することがわかっています。呼吸や光合成に関与する多くの酵素もカリウムで活性化されます。
参考:日本植物生理学会, 「カリウムが根の生育を促進するメカニズムについて」, 閲覧日:2023-02-02.
そのため、黒ひげゴケは何らかの方法でカリウムを利用しているのではないかと考えられます。
実際のところは、水槽内のカリウムが少ない環境でもカリウムを優先的に獲得することで、少ないカリウム環境でも生き残るということなのかもしれません。
そして他の水草などの植物はただでさえ少ないカリウムが食い尽くされてしまって、繁殖競争に負けてしまう、ということなのでしょう。
水草にはカリウムが必要ですから。
水草が衰退すれば、あとは黒ひげゴケのパラダイスです。
少ないカリウムと大量の窒素とリンを栄養に一気に増殖していくのでしょう。
※追記2023-02-13
フードにはカリウムがほとんど無いと書きましたが、私のあげているフードを見てみると、米ぬかなども入っているようなので、完全にカリウムがゼロというわけではないです。
あくまでカリウムが少ないという認識のほうがよいですね。
黒ひげゴケまとめ
結局黒ひげゴケの増殖には窒素とリンが大量にある環境が関係しています。
つまりこれらの栄養分をいかに減らすかという問題になります。
またカリウムの少ない環境で増殖できることから、少ないカリウムを食い尽くす可能性もあります。
黒ひげゴケを減らすには
- 水草に窒素とリンを吸収してもらう
- 水換えする
- リン酸除去剤を使う
このあたりの対応が考えられます。
3については後ほど述べます。市販品を使うのが一番です。
1については、黒ひげゴケがカリウム獲得競争で優位に立っている可能性があるので
「十分なカリウムを添加する」
ということが考えられます。
すると制限要因になっていた低カリウム状態が改善され、水草が窒素とリンを成長に使います。
結果的に窒素とリンの濃度が減少するので、黒ひげゴケも繁殖用に窒素とリンを利用できなくなって、減少するという理屈です。
ただしカリウム液肥はアルカリ性のものが多いので、pHを測りながら適量を添加しましょう。
2については解説しなくてもよいでしょう。
要するに窒素とリンを薄めるという話です。
黒ひげゴケ対策にはこのような手段が考えられます。
藍藻

藍藻は
「シアノバクテリア」
とも呼ばれ、葉緑体の起源と考えれれていて、かなり昔から存在し続けている存在です。
藍藻は酸性環境が苦手です。
このようにラン藻は,幅広い生育環境に適応しているが,なぜか酸性環境は苦手で,pH 4以下の酸性環境から単離される藻類は,ほとんど真核藻類なのである.
参考:仮屋園 遼, 「ラン藻は酸が嫌い」, 生物工学会誌 第99巻 第6号 302.2021.
また次の文献(2)によると、藍藻は窒素が少なく、リンが多いと繁殖するそうです。
ブルームを形成する藍藻類は窒素をめぐる競争に対して優れた競争者であり, 窒素制限下の植物プランクトン群集ではその他の藻類を排除し, 優占できることが知られている。
(2)参考:本間隆満 朴虎東, 「諏訪湖におけるMicrocystis種組成および藍藻毒素microcystin濃度に及ぼす硝酸態窒素・リン酸態リン濃度の影響」, 水環境学会誌 2005 年 28 巻 6 号 p. 373-378.
そして水生植物に関して調査した文献(3)によると、ある水性植物が吸収する窒素・リンの比は次のようになります。
吸収されたTINおよびPO4-Pの比は、生育時期によって変化したが、3.8~6.8の間にあることが明らかになった。
(3)参考:小浜暁子、江成敬次郎、玉置智、中山正与, 「水生植物(マコモ)による窒素・リン吸収量の評価」, 日本水処理生物学会誌 第39巻 第2号 59-66 (2003).
これを参考にすると、水草は最低でもリンの約4倍窒素を吸収するということです。
するとアクアリウムでは水草が成長する間、窒素を多く消費し、リンが余ります。
魚粉の構成比が
「N:P:K(窒素/リン/カリ) 5〜9:5〜15:0」
だったことを思い出してください。
水槽に添加されるリンのほうが窒素より多いんです。
つまりものすごくリンは余ります。
すると藍藻は窒素が少なくてリンが多い環境で優位に立つので、よく繁殖するということになります。
水槽では硝化の影響でpHが下がるので、そこがかろうじて藍藻を抑えている要素で、それでもリン酸過剰になるとさすがに繁殖を始めるといったところでしょうか。
上の文献ではpHは4以下での話でした。
我が家の水槽のpHは6くらいなので、藍藻は繁殖できるのかもしれませんね。
ちなみに硝化とpHについては以下でまとめています。
藍藻対策
上で述べたように藍藻を減少させるには
- リンを減らす
- pHを下げる
この二つが重要です。
実際の対策としては
- 水換え
- リン酸除去剤
- 水草をたくさん育成する
くらいです。
1はリン酸を薄めるという発想です。
ただやりすぎるとpHが酸性から中性に傾く、つまりpHが上がるので、藍藻に有利な環境になります。
まあこなれた水槽は多少水換えしたくらいではpHがものすごく上がるということはないでしょうから、あまり気にしなくてもよいかもしれません。
海水魚水槽では気をつけないといけないでしょうけど。
2はリン酸を物理的に除去するという発想です。
これについては後述します。市販の除去剤を使いましょう。
3は物量で攻めて、水草にリン酸を消費してもらうという発想です。
黒ひげゴケのところで述べたように、カリウムが不足しがちなので、カリウムの添加をすると効果的かもしれません。
藍藻の対策はこんな感じになります。
リン酸鉄の難しさ
農業の領域ではリン酸をたくさん施肥する理由として次のようなものがあります。
無機態リンは土壌中でアルミニウムや鉄と結合して水への溶解度が低い難溶態になりやすく、植物に利用されにくくなる
参考:南澤究、妹尾啓史、青山正和、齋藤明広、齋藤雅典, 「エッセンシャル土壌生物学 作物生産のための基礎」, 講談社, 2021, p. 093.
つまりリン酸が鉄などと結合してしまい、植物に利用されにくくなるから、それを見越して、大量にリンを施肥するということです。
また次の文献(4)から藍藻は基本的にリン酸鉄が苦手です。
その結果、O.tenuis、A.macrospora、P.tenueの3種はいずれも増殖阻害を起こし、リン酸鉄を鉄源として利用できないことがわかった。しかし、O.brevisのみはFig.12に示すように、リン酸鉄を鉄源として利用し、増殖することができた。
(4)参考:中島進、青山勲、八木正一, 「クエン酸鉄及びリン酸鉄を鉄源に用いた場合のかび臭物質産生ラン藻類の増殖」, 日本水処理生物学会誌 第30巻 第1号 1-8 (1994).
つまり水中に鉄を入れれば、リン酸鉄になって、リンを藍藻に利用できなくすることができそうです。
ただし上の文献のように、リン酸鉄を利用できる藍藻もいるので、まるっきり鉄に頼るというのは考えものです。
リン酸除去剤を購入すればいいだけの話ですが、代用として何らかの鉄資材を使うときは気をつけましょう。
また黒ひげゴケがリン酸鉄を利用できるかは、残念ながらわかりませんでした。
光合成をする生物がリン酸鉄を苦手としているので、黒ひげゴケも苦手だろうと推測して話を進めます。
ついでに言うと、リン酸鉄は難溶性の物質なので、おそらく水中にモヤモヤと漂って、底床やフィルターのろ材に引っかかります。
放っておくと魚のエラに詰まったりする可能性も無いとは言えず、かなり自己責任の領域となります。
手軽に試さないほうがよいと思います。
まあ鉄資材の中でも、メネデールは水槽用のものが売っていますし、ある程度検証されているでしょうから、水草の生育を活発にする目的で、適量を入れる分には問題ないと思います。
二価の鉄と三価の鉄の違いなんですかね。
水中の二価鉄と三価鉄の変化はかなり複雑で、酸素量とかpHにも依存してかなり複雑なので、今回はこれ以上立ち入らないことにします。
まとめ
今回は黒ひげゴケと藍藻について述べました。
対策としては
- リン酸態リンを減らす(リン酸除去剤)
- カリウム添加で水草の育成を強める
- 水換えする
- pHの上昇に気をつける
このようになります。
難しいなら水槽リセットです。
普通に水槽を運営していると、あるときいきなりやってくる黒ひげゴケと藍藻。
そのメカニズムが伝われば幸いです。